シューズのソール部分、白く見えるのが新素材「ブーストフォーム」だ。ドイツ最大の化学メーカー・BASF社とアディダスの共同で、開発から製品化まで10年の歳月をかけたという力の入れよう。よく見ると何やら粒のようなものがある。
「非常に弾力性の高いE-TPU(発泡熱可塑性ポリウレタン)という高分子の粒を、熱で圧縮しています。セル(細胞)状に粒を残しつつもひとつの集合体として成形する独自の方法によって『衝撃吸収』と『反発』、相反する2つの機能をあわせ持った新しいソールができました」
体重の3倍とも言われる足への衝撃を柔らかく受け止め、走る力へ転換する革命的な素材はこうして生まれた。従来、大半のソールに使用されていた素材と比較して反発力が70%もアップしたというから驚き。「ふわっ、ぽよん」という独特の感覚はここから生じているのか。
実は1960年代から今まで、どのメーカーのシューズのソールにも使われてきた素材がある。EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)だ。
「EVAは優れた素材ですが、衝撃を受け止めるクッション性と足を蹴り出す反発性、その両方をEVAだけで実現することは難しかったのです」
メーカーは試行錯誤してきた。固さの違う2種類のEVAをソールに貼り合わせるといった方法も試した。しかし靴は重くなり、エネルギーの伝達は非効率的で、耐久性も十分ではなかった。
「そこで弊社はEVAを前提にした靴作りという常識にとらわれず、ゼロから素材開発に取り組んだのです」
マラソンレースは寒い時期の開催も多いが、ブーストフォームはマイナス20℃からプラス40℃までの温度帯で弾性が変化しないのが特徴だ。
「試し履きをされた方の購入率はとても高いんです」と西脇氏は自信を見せた。
※SAPIO2014年4月号