経済界で女性登用ブームが起きている。その背景にあるのは、今年1月に安倍晋三首相が施政方針演説で掲げた「20・30」目標である。2020年までに「指導者的地位に女性が占める割合が30%以上になるよう期待する」としたうえで、上場企業は少なくとも1人は女性役員を置くべきだとした。
ノルウェーは2003年に「割り当て制」を導入し、6%だった女性役員比率を2008年には40%に引き上げた。
翻って、日本の女性管理職比率は約10%にすぎず、おおむね30~40%ほどの欧米に比べて著しく低い。さらに取締役に女性がいる企業は4.1%にすぎない(内閣府調べ)。
慶応義塾大学大学院商学研究科教授の鶴光太郎氏は、40%に引き上げたことがノルウェー企業の“足枷”になっていると指摘する。
「米国の大学機関が精査したところ、40%目標の対象となった企業の株価は大幅に下がり、企業価値を評価する指数も女性役員比率が10%増加すると12%程度下落するという結果が出た。さらに、女性役員40%の目標は基本的に上場企業を対象にしたため、規制を逃れるために3割の上場企業が非上場化するという現象も起きた。それほど女性役員40%というのは、企業にとって重荷だったのです」
鶴氏によれば女性役員比率が高い企業ほど、休暇制度やリストラなどの手法による雇用削減を抑える傾向にあり、相対的に労働コストが高まったという。
「こうしたマイナス効果は、“40%ルール”以前に女性役員がいなかった企業ほど顕著だった。無理に女性を登用しようとしたことによるシワ寄せが出てしまったということでしょう」(同前)
東京家政大学名誉教授で男女共同参画審議会のメンバーでもある評論家・樋口恵子氏でさえ、「安倍首相は、世界の中で日本だけが立ち遅れていることにやっと気づいて、躍起になってスピードアップしようとしている感じがする。でも、あまり急ぎすぎると危険です」と危惧する。
埋もれがちだった女性の能力を活用し、ビジネスに新たな可能性を広げるために役員の女性登用を試みることは、日本企業の重要なテーマであることは間違いない。
しかし、「女性登用」という手段が目的化してしまえば、男性社員ばかりか女性社員にも不幸な結果をもたらし、場合によっては経営を傾かせかねないことも留意しておく必要があるといえそうだ。
※週刊ポスト2014年4月18日号