ビジネス

入社式社長訓示の名セリフ集 「無理ゲー」感が高まる傾向に

 毎年この時期になると入社式における社長訓示が新聞紙面で紹介される。無味乾燥な文言と思いきや、社会事情を背景にしたトレンドもあれば、トンデモ?発言もある。作家で人材コンサルタントの常見陽平氏がレポートする。

 * * *
 4月です。今年も各社で入社式が行われました。入社式といえば、社長の訓示です。さて、社長たちは入社式で何を語ったのでしょう?時代とともにどう変化してきたのでしょう?

 そんな素朴な疑問を抱き、平成元年から平成25年までの入社式での社長の訓示を調べてみました。先日、発表した『「できる人」という幻想』(NHK出版新書)の第1章に収録しています。日本経済新聞の入社式報道を25年分調べたのでした。この入社式報道は、大手企業が中心ですし、発言も一部を切り取ったものではあります。とはいえ、25年分を振り返ってみると傾向のようなものを見出すことができました。

 大きな転換点は、1996年の入社式です。この年から、入社式報道は深刻な内容のものになっていきました。なんせ見出しが「会社人間いらぬ ひるまず挑戦を」です。新入社員を迎える場で、「会社人間いらぬ」ですよ。このあたりから「いつまでも会社にいられると思うなよ」というメッセージが増えていきました。

 これには理由があります。バブル経済崩壊後の経済環境などもあるわけですが、前年の1995年5月には、日経連(当時)が『新時代の「日本的経営」』を発表しています。このレポートは、日本的雇用慣行の見直し、特に正規雇用と非正規雇用をわけていく指針になったとされています。労働力について、長期蓄積能力活用型グループ、高度専門能力活用型グループ、雇用柔軟型グループの三グループにわけて分類し、運用しようというのがポイントでした。また、終身雇用はもう維持できないのではないかという議論が盛り上がった時期であります。かつての入社式は、長期雇用のスタートを象徴するものでしたが、この頃から、労働者は一律ではなく、そして会社に入っても安泰ではない時代の到来が迫っていたのでした。

 その後のメッセージですが、基本的にはグローバル化×危機感×プロ意識×コンプライアンスなのですね。いつの間にか、経営トップ層、管理職も実践できていないような「無理ゲー」感が漂う脅迫メッセージが増えていったのであります。

 さて、私が選ぶ平成元年〜平成25年の社長スピーチ名セリフ、迷セリフ、珍セリフのベスト7をご紹介しましょう。順番はつけずにご紹介しますね。ソースはすべて、各年の4月2日〜5日頃の日本経済新聞朝刊です。社名、社長の名前は当時のものです。

「同質のひとが集まる『金太郎飴』では対応できない。犬・猿・キジといった個性が集まる桃太郎集団ではなくてはならない。」
平成24年(2012年)アサヒグループホールディングスの泉谷直木社長
→ギャグなんですかね。でも、よく聞かないと何を言っているのかわかりません。多様性が必要だってことですな。

「当社はごく普通の民間会社で、不沈艦ではない。終身雇用の保証もしない。嫌ならすぐお帰りください」
平成11年(1999年)ニチメンの渡利陽社長
→その後、日商岩井とくっつきましたね。不沈艦ではなかったということでしょうか。ご丁寧に予言、ありがとうございます。

「これからは個々の社員が起業家、事業家にならないとビジネスがうまくいかない」
平成12年(2000年)ソニー出井伸之社長
→結局、その後のソニーは、個々の社員が起業家、事業家になれなかったということですかね?

「さくらの名にふさわしい、皆様に愛される銀行になりたい」
平成4年(1992年)さくら銀行の末松頭取
→社名変更したのですね、このタイミングで。その後、不良債権問題などにより経営が悪化。2001年4月に住友銀行と合併し、三井住友銀行となりました。さくらは咲いたのでしょうか、散ったのでしょうかね。

「会社人間ではこれからの時代は通用しない」「野茂やイチロー選手のようにエンジョイしながら仕事をし、結果を出す。これが本当のプロ」
平成8年(1996年)丸紅の鳥海巌社長
→言いたいことはわかるのですが、新人に野茂やイチローって厳しくないですか?

「ホラを吹き、夢を語るのが若者の特権だ」「実現に向けて必死の努力を」
平成21年(2008年)日本電産の永守重信社長
→意識高いです。力強いですね。

「丸紅は大丈夫かと思う人がいるかもしれないが、まだまだ大丈夫だ」
平成9年(1997年)丸紅の辻亨社長
→男らしい!商社冬の時代と言われた頃ですが、社長には若者への責任転嫁ではなく、こう強くあって欲しいです。

「お前はできているのか?」と言いたくなるような訓示も多数です。すでに平成3年の日経の入社式報道では、こんな問題提起がされていました。

 今年は、国際性が豊かなチャレンジ精神があふれるプロフェッショナルで、社会性も身につけた個性派ビジネスマン――となる。こんな〝とんがり社員〟があなたの周りにいますか?

 「挑戦的」で「創造的」な「国際的」視野を備えた「プロ」は、経営者にこそ必要なようだ。

 まあ、この入社式の訓示は、新入社員だけでなく、従業員、株主、取引先、社会と、他のステークホルダーに向けたものでもあるので、どんどん意識高いものになっていくのですよね。真に受けてはいけません。さて、あなたの企業の入社式では社長は何を語りましたか?

関連記事

トピックス

降谷健志の不倫離婚から1年半
《降谷健志の不倫離婚から1年半の現在》MEGUMIが「古谷姓」を名乗り続ける理由、「役者の仕事が無く悩んでいた時期に…」グラドルからブルーリボン女優への転身
NEWSポストセブン
警視庁がオンラインカジノ店から押収したパソコンなど(時事通信フォト)
《従業員や客ら12人現行犯逮捕》摘発された店舗型オンカジ かつての利用者が語った「店舗型であれば”安心”だと思った」理由とは?
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン
放送作家でコラムニストの山田美保子さんが、さまざまな障壁を乗り越えてきた女性たちについて綴る
《佐々木希が渡部建の騒動への思いをストレートに吐露》安達祐実、梅宮アンナ、加藤綾菜…いろいろあっても流されず、自分で選択してきた女性たちの強さ
女性セブン
看護師不足が叫ばれている(イメージ)
深刻化する“若手医師の外科離れ”で加速する「医療崩壊」の現実 「がん手術が半年待ち」「今までは助かっていた命も助からなくなる」
NEWSポストセブン
(イメージ、GFdays/イメージマート)
《「歌舞伎町弁護士」が見た恐怖事例》「1億5000万円を食い物に」地主の息子がガールズバーで盛られた「睡眠薬入りカクテル」
NEWSポストセブン
キール・スターマー首相に声を荒げたイーロン・マスク氏(時事通信フォト)
《英国で社会問題化》疑似恋愛で身体を支配、推定70人以上の男が虐待…少女への組織的性犯罪“グルーミング・ギャング”が野放しにされてきたワケ「人種間の緊張を避けたいと捜査に及び腰に」
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
【新宿タワマン殺人】和久井被告(52)「バイアグラと催涙スプレーを用意していた…」キャバクラ店経営の被害女性をメッタ刺しにした“悪質な復讐心”【求刑懲役17年】
NEWSポストセブン
女優・遠野なぎこの自宅マンションから身元不明の遺体が見つかってから1週間が経った(右・ブログより)
《上の部屋からロープが垂れ下がり…》遠野なぎこ、マンション住民が証言「近日中に特殊清掃が入る」遺体発見現場のポストは“パンパン”のまま 1週間経つも身元が発表されない理由
NEWSポストセブン
幼少の頃から、愛子さまにとって「世界平和」は身近で壮大な願い(2025年6月、沖縄県・那覇市。撮影/JMPA)
《愛子さまが11月にご訪問》ラオスでの日本人男性による児童買春について現地日本大使館が厳しく警告「日本警察は積極的な事件化に努めている」 
女性セブン