──では、現代日本を象徴する建築とは?
安藤:先日亡くなった建築史家の鈴木博之さんは、東京の高層ビルを一瞥して「ビジネススーツ・ビル」と評しました。まさにそうだと思います。変わり映えのしないサラリーマンの背広と同じで、立ち並ぶビルは少しずつ違うものの、ほとんど同じ。「思いの限りつくった」と胸を張ったものとは言えないのではないでしょうか。
香川県庁舎旧本館や代々木競技場に代表されるように、日本人が夢や目標を抱いていた時代の建築は「文化のシンボル」でした。しかし今は「経済のシンボル」に過ぎません。いや、シンボルどころか「経済活動のために必要な建物」にすぎないものがほとんどかもしれません。
ここに日本の問題が凝縮されています。アベノミクスもそう。「景気を良くする」と言うけれど、お金を儲けたその先に、どんな国ができるのかが描けていないと思います。経済やお金は決して生きる目的や目標にはならない。しかし残念ながら、誰も夢が描けず、それどころか建物だけでなく人間さえも画一化されてしまっていると感じます。
※SAPIO2014年5月号