シニア世代が若かりし日にこっそり読みふけったフランス書院文庫がこの4月、通算2000作目を刊行した。フランス書院は、数々の官能作家をデビューさせてきた。その数は実に100人以上にも及ぶ。
現在、フランス書院の人気ナンバーワン作家は、記念すべき2000作目を上梓した神瀬知巳氏。神瀬氏は20代半ばで会社員生活を辞して、官能小説家になる決心を固めた。神瀬氏が語る。
「あちこちの出版社に原稿を応募した結果、最初に声をかけていただいたのが、フランス書院でした。処女作は『二つの初体験 熟義母と若叔母』。2005年の出版です」
神瀬氏は創作のための取材は行なわない。そのかわり、担当編集者とは細部に至るまでとことんディスカッションを繰り返す。
「読者の求めるヒロインは、現実のどの聖女よりも清らかで凜々しく美しく、恥じらいを忘れない。しかも読者だけを愛し、セックスではとことん乱れて淫らになってくれる。こういうヒロイン像、聖性こそフランス書院の歴史が培った財産。現実の女性に取材して書くことで、ヒロイン像を損なってはいけないと考えています」
神瀬氏は「エロ小説は決して妥協してはいけない」と断言した。
「たった1行でも手を抜けば、読者が1人離れてしまいます」
作家・開高健は官能小説を「大人の童話」と看破した。このゴールデンウィーク、作家たちが魂を込めて紡いだ「最高にエロい大人の童話」で性愛の世界に遊ぶのも悪くはないだろう。
※週刊ポスト2014年5月9・16日号