7月から解体工事が始まり、その後、イラク出身の建築家ザハ・ハディド氏によるデザインで建設が始まる予定となっている新・国立競技場だが、多額の血税投入や周囲の景観を損ねることなどを問題視する声は根強い。
曲線を生かしたその独創的なデザインもまた、その建設の実現性となると疑問符が付く代物だという。
ザハ案は、船形の観客席部の上方に位置する2本のアーチで屋根を支える構造になっているが、建築エコノミストの森山高至氏は、この構造が建設時の課題になると指摘する。
「アーチ構造は、『柱・壁・屋根』がある一般的な建築物とは大きくことなり、工事法も独特なものになるはずです。それをどう実現するかという詳細なスペックが一昨年のコンペ後すぐに示されなかったのは、あまりに奇抜なデザインのため、設計そのものに課題が多く、手こずっていることの現われではないか」
新競技場はコンサート会場としても使用できるよう、遮音対策として屋根を開閉式にした。しかし、ザハ案では開閉装置が技術的に困難であるというのは、“建築界のノーベル賞”ともいわれるプリツカー賞を受賞している日本を代表する建築家である伊東豊雄氏だ。
「私自身も新国立競技場のコンペの応募に参加しましたが、採用されたザハのデザインには正直疑問を持たざるを得ない。ザハのデザインは屋根に曲面の開口があります。中央にある一番大きな開口を開閉するには、東京ドームの屋根と同じテフロン素材の幕が使用されると予想されますが、この素材では遮音性能が期待できません。
今年のように大雪が降った時、屋根が耐えられるのかという心配もありますし、オープン時に屋根を収納する仕組みについても、相当難しい工夫が必要になることは間違いないです」(伊東氏)
※週刊ポスト2014年6月13日号