国内

小中一貫教育 「財政難に悩む自治体の思惑が先行」と識者

 日本の義務教育を司る「6・3・3制」。戦後、GHQ(連合国軍総司令部)指令の下、米国の教育使節団が導入を勧告し、1947年の学校教育法施行に伴いスタートした学制である。

 それから半世紀以上が経過した今、学制の枠組みが大きく変えられようとしている。

 政府の教育再生実行会議が提言に盛り込む方針なのが、すでに全国の一部自治体で特例的に始められている公立学校の“小中一貫教育”推進だ。「6・3制」から「5・4」あるいは「4・3・2」に区分けを変更し、小中9年間の教育を同じ校舎内や近隣の学校と連携して行おうというもの。

 この制度に倣えば、小学生は4、5年で卒業。早くから中等教育が行われることになる。なぜ、国や自治体は義務教育のシステム自体を変えようとしているのか。安田教育研究所代表の安田理氏が解説する。

「昔に比べて子供の精神年齢の発達が早期化しているため、英語など専門教科の前倒しや、学級担任制から教科担任制への実施を早めて小学校と中学校の間にあった学習面や生活面の『壁』を取り払おうというのが目的。

 それによって、中学入学で新しい環境にうまく馴染めない子供たちの“中1ギャップ”も解消でき、イジメや不登校も減るのではと期待しているのです」

 しかし、安田氏は「現場のことがまったく分かっていない理想論に過ぎない」と切り捨てる。

「イジメや不登校の問題は個々のケースごとに解決策を図るべきもので、教育の年限を区切ったからといって解決する話ではありません。むしろ中学進学で大きな環境の変化をつけたほうが飛躍的に成長する子供だってたくさんいます」

 そもそも、今回の一貫教育推進の背景には、財政難に悩む自治体の思惑が透けて見える。千葉県の公立中学教諭(42)は、こう憤る。

「さらなる少子化を見越して小中学校の垣根を超えた統廃合を進め、財政負担を軽減したい魂胆はミエミエ。自治体の首長にとっては財政の健全化を成し遂げられるし、一貫教育が制度化されれば地元の反対が強い学校の廃校も堂々とできる。でも、その時々の首長の考えひとつで教育が動くこと自体がおかしい」

 とはいえ、廃校後の跡地利用や、小中一貫校にするための敷地拡大・校舎の増設、小中でサイズの違う机やイスの発注、遠方から通う生徒たちの足としてスクールバスの費用……等の財政負担がかえって重くのしかかるケースも十分に考えられる。

 なによりも、いちばん負担を強いられるのは現場の教員たちだ。

「一貫教育が制度化されれば、小学校と中学校で違っていた教員免許の取得方法も共通化され、これまで中学で社会科を教えていた先生が、授業の進め方もまったく違う小学生のクラスまで担当する乗り入れは普通になるでしょう。

 ただでさえ幅広い学年の生徒たちの面倒を見なければならないうえに、モンスターペアレントに悩まされていた先生は、そうした親たちとの付き合い年数も増える。うつ症状を訴える先生はますます増えていくかもしれません」(安田氏)

関連記事

トピックス

モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の判決は執行猶予付きに(画像はイメージ、Getty)
「何もついてない、まっさらな状態で抱きしめたかった」呼吸器に繋がれた医療的ケア児の娘(7)を殺害した母(45)が語った「犯行時の心情」【執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁/時事通信)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト