飲食店で働く42才のパートの女性が厳しい店長の裏の顔を見た時の心温まるエピソードを紹介します。人はパッとした印象だけがすべてではないことがよく分かります。
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飲食店でパートをしています。温和な店長のもと、和気あいあいと働いていました。ところが、店長が異動となり、次の新店長は30代前半の無愛想な人。指示する態度も偉そうなんです。私語が厳禁となり、遅刻やミスをすると、給料から罰金が差し引かれるようになりました。
また、仕事のできる人は時給をアップ。できない人は勤続年数が長くても、時給を下げられたり…。今までがゆるい雰囲気だっただけに、従業員たちもピリピリするようになりました。
ある時、店を閉めて皆で帰った後、私だけ忘れものに気づき、戻ったことがあったんです。ところが、鍵をかけたはずの事務所が開いており、店の一部に電気がともっています。“まさか泥棒?”と、恐る恐る入ると、なんとエプロン姿の店長が、トイレの大掃除をしていたのです。私に気づくと「どうしたんですか?」と驚いた様子。
「忘れ物を取りに。店長こそ、何をしているんですか?」と聞くと、うつむいて「いや、掃除を…」と。見ると、トイレがピカピカで、普段私たちが見逃しがちな隅々まで、カビ防止剤がまかれています。そういえば、最近トイレがきれいになったとお客様からも評判で、てっきり清掃業者が入ったのかと思っていました。
「掃除なら私たちがやりますから」と言うと、「いや、上に立つものが、いちばん汚い仕事をするべきなんだ! って、ぼくの恩師のうけうりなんですが…」と照れたように言う彼を見て、これまでの評価ががらりと変わりました。
その後も、店長の態度は厳しく、不満な人はどんどん辞めていきましたが、今残っているのは、店長のやり方に納得した、仕事のできる人ばかり。そのせいか、仕事の効率もよくなりました。上に立つ人間の影響力を実感。私も最近パート長を任せられるようになり、仕事に張り合いを感じられるようになりました。
※女性セブン2014年6月19日号