平と蜷川が組んだ舞台のほとんどは、『王女メディア』をはじめとするギリシャ悲劇、『ハムレット』などのシェイクスピア、そして近松、いずれも古典劇だ。

「演劇と政治が蜜月にあった時代がありましたが、僕は演劇青年ではなかったのでデモには参加せず、歌舞伎座にばかり行っていました。大成駒屋(※五代目中村歌右衛門)とか、そういう芝居がとても面白くて。

 それで歌舞伎の芝居を作る技術が段々と見えてきました。やれることはないんですが、観ていて分かるんです。そういうものが何となく頭の中にあったので、近松をやる時でも蜷川さんとは『僕らでしかやれない近松をやろう』と話しながら参考にしました。
 
 ハートだけではこなしきれないんです。封印切りとかそういう見せ場の段取りやテクニックを我々なりに使わないと、カタルシスまで持っていけない。いきなり叫んだところで、自分はカタルシスになれてもお客さんはカタルシスにはなれない。

 蜷川さんは『ちょっと放っておくと平さんは“形”になっていくんだよ』と言っています。僕が“形”を見て知っていることは彼には邪魔だったのかもしれません。『長谷川一夫じゃないんだから』とか言われました。『“形”になりすぎる』と。

“形”も必要だけど、もっとリアリティを込めろと言いたいのだと思います。それは分かっていましたが、表現なのですから、階段を一つ駆け降りるにしてもカッコよくというか、荒っぽい中にも美しさがいると思うんです。もちろん作品によってですが」

●春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。映画史・時代劇研究家。著書に『天才 勝新太郎』(文春新書)、『仲代達矢が語る日本映画黄金時代』(PHP新書)、『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(文芸春秋刊)ほか。

※週刊ポスト2014年7月11日号

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