──練習試合で勝つ必要はない、と。
「もちろん特殊な方法ですけどね(笑い)。しかし勝つためには、選手たちが『自分ができることを確実にやれるようにする』と徹底しなければいけない。簡単そうで、実はこれが一番難しいことじゃないかと思うんです。そういう堅実なチームに、運や流れがついてくるのかもしれません。
ポッポは、選手たちに『8勝92敗でも甲子園に行ける』と檄を飛ばしました。つまりどんなに負け続けても、最後の夏の予選を勝ち抜けばいいということ。決勝の相手だった聖母の名将・桐生監督は、ポッポにこう言います。『高校野球では強いチームが必ずしも勝ち上がれるわけではない。勝つべき試合で勝てるチームが強いのだ!』と」
──勝つべき試合で勝てるチームとは?
「やはり安定感のある投手は不可欠じゃないかと思います。サイガクも、日高という剛速球投手がいてこその快進撃でした。実際の高校野球でも、強豪校を負かす無名校には、たいてい一目置かれるエースがいるでしょう」
──『ラストイニング』は埼玉県がモデルで、中原さんも埼玉ご出身。学生時代からたくさん高校野球を観戦してきたそうですね。その中でも一番心に残る「大番狂わせ」とは?
「やっぱり1982年ですね。当時から豪腕投手として知られていた市立川口の斎藤雅樹を、県立の進学校、熊谷が破って甲子園に出場した。僕は純粋に野球ファンとして斎藤に注目していたんだけど、これには驚いた。組み合わせの妙もあって斎藤も決勝にいくまでに疲弊していたのかもしれないけれど、これぞ高校野球だと思いましたね。今年も予選からどんなドラマが生まれるか期待しています」
◆中原裕(なかはら・ゆう)/1962年、埼玉県生まれ。漫画家。代表作に『奈緒子』など。『ラストイニング』は、週刊ビッグコミックスピリッツで約10年にわたって連載され、今年4月に完結。最終44巻が発売されたばかり。
※週刊ポスト2014年7月25日・8月1日号