何かを行なった結果を基に、修正したり、結果を最適化するために試行錯誤する過程をフィードバックという。医療分野では、以前からこの手法が用いられている。例えば首を傾げる癖のある人に対し、傾く側にセンサーを付け、首が傾き、筋肉が縮んだら音が鳴るようにする。センサーが鳴ると首を真っ直ぐに修正、これを繰り返すと首を傾けなくなる。
これを脳卒中後のマヒの改善に応用したのが、ニューロフィードバックだ。脳の働きを活性化することで、対応する手足機能の改善を行なう新しい手法である。開発を行なった大阪大学大学院医学系研究科、神経内科学特任助教の三原雅史医師に話を聞いた。
「脳卒中後のマヒの改善には、ダメージを受けた周辺の、今まで使っていなかった脳細胞を活性化させることが重要と考えられています。通常のリハビリでは、動かない手足をできるだけ動かす訓練で、これら周辺領域の活性化を目指しますが、重症では思うように回復しないことがあります。マヒは脳細胞のダメージで起こっているのに、肝心の脳に対するアプローチがないのが原因です。
効率的に脳を活性化させたいと思い開発したのが、ニューロフィードバックです」
大脳の運動野は手足の動きと連動する部位が決まっており、手足を動かしたり動かすイメージを持つだけで血流が増える。患者は近赤外分光器(NIRS)を頭に着け、モニターの前に座る。赤外線は皮膚や骨を通過して、血液内のヘモグロビンに吸収される性質があり、NIRSで、リアルタイムで血流量が増えた部分がわかる。対応している正しい領域の血流量が増えると、モニターに棒グラフで表示される仕組みだ。
しかし、正しい場所の血流が増加しないと、棒グラフは上がらない。患者は棒グラフが上がるのを見ながら、イメージの方法を訓練する。
効果を検証するために、発症後90日以上経過した脳卒中後のマヒを持つ患者20人に対し、臨床研究が行なわれた。患者を2つのグループに分け、10人には脳の動きに連動して棒グラフが上下するニューロフィードバックを、残り10人には同じ装置で脳と連動せず、勝手に棒グラフが上下するモニターを見せた。
「指と手の動きの機能改善を比較したのですが、ニューロフィードバック群の方が、14点満点のスコアで2点近く上回り、明らかな改善効果が見られました。実際、指が伸ばせない状態の患者が、指の曲げ伸ばしができるようになるなど、重症者でも効果が見られました」(三原医師)
ニューロフィードバックは、週3回2週間で合計6回実施する。1日の訓練は5分を4回で、準備や休憩を挟み約30分で終了する。ニューロフィードバックは、現在歩行に関する臨床研究を始めている。今後パーキンソン病などに対象を広げていく予定だ。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2014年7月25日・8月1日号