骨付きカルビなど、客自身の手によってハサミでカットするような肉の場合、カットするのは食べごろになってから。肉はじんわり加熱したほうがうまみが膨らむ。さらに最初に小さくカットしてしまうと火の入りがコントロールできずに、焼け過ぎになってしまいがちだ。
焼き目は味つけにもよって左右される。タレならば焼き目はつきやすく、塩はつきにくい。つまり焦げやすいタレ味の肉は強火ゾーンに置く時間は短く、焦げにくい塩味の肉は強火ゾーンに置く時間が比較的長くなる。
さらに肉に占める脂肪の比率も重要だ。脂肪が多いほど、きっちりと焼きを入れたほうがうまみは膨らむ。タンやカルビなど脂肪の多い部位は、内部の温度をしっかり上げて脂を落とさなければ、脂っぽさを強く感じたり、食べ終わった後に胃もたれしてしまうことも。同じ部位でも穀物を食べさせた黒毛和牛のA5と、牧草で育てた(グラスフェッド)オージー・ビーフではサシの入り方が異なる。厚さやサシの入り方を見極めて、「サシはきっちり」「赤身はやさしく」焼きあげたい。
また焼いて脂を落とす際、「煙で燻したほうがうまくなる」という誤解があるが、脂が直火に落ちて立ち上る煙は雑味になる。ボーボーと炎が立ち昇るような状態は回避しなければならない。火や煙が立ち上ったら、そこから肉は避難させるのが吉。炭火ならば、店から氷をもらって火の上に置くなどして消火につとめたい。
どんなにいい肉を提供するいい店でも、焼き上がりによって満足度は変わってくる。同じ時間、同じ料金を支払うならば、多少の手間をかけてもおいしい「食欲の秋」を過ごしたい。