──鼻濁音の使い分けは、恥ずかしながら私も知りませんでした。
美輪:いまの方はご存じないですから。しかも若い子なんか「すっげぇ」とか「やべぇ」とか言ってね。
──「やばい」はよく聞きますね。
美輪:なんでも「やばい」「やべぇ」って。みんな動物に近くなって退化してるんです。しまいには「わー」とか「おー」とか、「ワン」とか「ニャン」とか、それですんじゃうんじゃないかと思いますよ(笑)。
でも昔は言葉が複雑で、それを使いこなしていた。美意識なんです。幕末から明治期は日本の美意識が世界中から注目を浴びていた。有田焼とか九谷焼が輸出され、包み紙がないから浮世絵とか錦絵に包んで送られて、向こうの美術関係者が「何だ、これは」って。野蛮な東洋にこんな洗練された文化があるのかって。
華道、書道、織物や工芸品も紹介され、ジャポニズムブームが起きた。モネ、ゴーギャン、ロートレック、ゴッホも日本美術の影響を受けた。クリムトも尾形光琳なんかの影響を受けています。
そういう下地があって明治に西洋文化が入ってきた。音楽畑でも、いまみたいにロックなんかを無条件に受け入れるんじゃなくて、波打ち際でちょっと待ったって止めるんですね。そして滝廉太郎や本居長世といった作曲家が長唄・端唄や常磐津などをミックスさせる。それに北原白秋や三木露風といった一流の文学者がレベルの高い詩を書いて、『赤とんぼ』とか『朧月夜』などの美しい唄がたくさんできた。あのころの人はただ者じゃない方ばかりです。
※SAPIO2014年10月号