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映画ドラえもん 『のび太の恐竜』だけ短編の原作がある理由

 シリーズ累計の観客動員数が1億人を突破し、するなど、老若男女問わず愛され続けている映画『ドラえもん』。その第1作は1980年に公開された映画『ドラえもん のび太の恐竜』だった。シンエイ動画の元会長・楠部三吉郎氏は著書『「ドラえもん」への感謝状』(小学館)の中で、原作者の故・藤本弘(藤子・F・不二雄)氏に長編アニメ映画の制作を持ちかけたときの様子を、こう振り返っている。

 * * *
 新宿の事務所に早速出向きました。かくかくしかじか、長編アニメの件を伝えると、先生、快諾すると思いきや、予想に反した答えを返してきたのです。

「楠部くん、僕は短編作家です」

 藤本先生、どこまでも謙虚なのです。ようするに、長編マンガを描いたことがないと、控えめに断ってくる。確かに映画にするには、長編の原作が必要でした。一話読み切りのドラえもんには該当する作品がありません。

「先生、ボクは先生が短編だけの作家だなんて思いません」

 アニメが映画化されるということは、『ドラえもん』がさらに大化けするチャンスです。正直、逃してなるものか、と思いました。先生に懇願しながら、咄嗟に、頭の中であるひとつのマンガが思い浮かびました。

「先生、そうです、ピー助です。ボクは、あのピー助が、白亜紀に行った後、どうなったのか、非常に興味を持っています。あの続きを描いていただけませんか?」

 ピー助──ドラえもんファンならお馴染みでしょうが、短編「のび太の恐竜」(てんとう虫コミックス10巻)で、のび太が掘り出した卵の化石から生まれた恐竜です。

 のび太は、掘り出した化石を、ひみつ道具「タイムふろしき」で、1億年前の状態に戻します。その卵を、パパやママに注意されてもめげずに、自力で温め、なんと孵化に成功するのです。こっそりエサを与え、育てるのですが、大きくなりすぎたピー助をどうにもできなくなってしまう。

「なにもまようことはないんだ。ほんとうにピー助のしあわせをねがうなら、とるべき道はひとつ!」

 のび太は覚悟を決めると、ドラえもんと一緒に、タイムマシンでピー助を白亜紀に送り届ける。懐いているピー助はのび太の後をどこまでもついてきますが、のび太は「だめだったら だめなんだよっ」とあえて強い口調でピー助を遠ざけ、涙ながらに元の時代に戻ってきます。

 このマンガが、なぜか頭の中にずっと残っていたんですね。大好きだったんです、この話が。だから用意していったわけじゃないのに、ふと口をついて出てしまった。

 先生はじっと考えて、やおら大きく頷きました。「……それだったら、描けます」と先生、長編をOKしてくれました。

 そういうわけで、ドラえもんの長編映画は2014年春に、通算34作目が公開されましたが、コミックスの短編の原作があるのは、『ドラえもん のび太の恐竜』だけです。

※楠部三吉郎・著/『「ドラえもん」への感謝状』より

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