侵略や内戦に見舞われた期間が長ければ長いほど、老舗は存在しえない。これは世界各地に当てはまる“法則”である。
かたや日本列島では、平穏無事な時代が長く続いてきた。その土台の上に、「継続」をことのほか重んじる日本人の価値観や、「自然」と「ものづくり」を愛する独特な気風が重なり合って、老舗文化と温泉文化の両方が大きく花開いた。
こうした諸条件が奇跡的にそろったからこそ、老舗も温泉も、1000年の時を超えて存続できたのだ。われわれがいま温泉を心置きなく楽しめるのは、その恩恵に文字通り「浴している」からなのである。
◆野村進/1958年生まれ。1997年、『コリアン世界の旅』で大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞をダブル受賞。『千年、働いてきました』がベストセラーとなり、近著には『千年企業の大逆転』など。
撮影■二石友希
※週刊ポスト2014年11月14日号