「290円(税込313円)」という驚きの安さで親しまれているラーメンチェーン、幸楽苑(本社・福島県郡山市。東日本を中心に国内外に500店舗以上を展開)の名物「中華そば」が消える──11月末に飛び込んできたこのニュースは、「安ウマ飯」を愛するサラリーマン、学生にショックを与えた。
発端は11月27日の同社決算説明会での新井田傳社長の発表だった。
2014年10月に岡山でオープンした店舗で地域限定販売した「醤油らーめん」(520円)の売れ行きが好調なことから、全国に販売エリアを拡大すると報告。その一方で、290円の「中華そば」は人件費や光熱費が高騰している現状では「限界に来ている」として、今後は試験的に販売しない店舗を導入するなど販売中止も視野に入れていることを明らかにした。これが「290円ラーメンが消える」「実質値上げ」などと大きく報じられたのである。
消費増税や円安による原材料高騰の影響で、外食チェーン業界では値上げが相次いでいる。牛丼チェーン大手の「吉野家」は牛丼並盛を280円から300円に値上げし、「松屋」は関東地方で牛めし並盛290円からプレミアム牛めし380円へ切り替えた。そのさなかのニュースにファンからは「安くない幸楽苑なんて幸楽苑じゃない」と批判の声があがった。
同社に聞くと、「販売中止が決まったわけではない」とし、こう説明した。
「あくまでも試験的に一部の店舗で販売を中止するだけです。あたかもチェーン全体で中止が決定したかのように報じられて困惑しています。“もう幸楽苑には行かない”といったお叱りもいただいています。それによって改めて中華そばが当社の看板商品なのだと実感しているところでもあります」(広報担当)
290円ラーメンが生まれたのはデフレが顕著だった2006年のことである。他業界と同じく幸楽苑も低価格競争に参戦し、それまで390円だった定価を290円に値下げした。結果、中華そばの注文は急増。しかしながら皮肉なことに収益は悪化した。
「利益率が低く、客単価を押し下げ、『売れば売るほど赤字』というジレンマを生み出した。値下げで中華そばの注文率が30%を超えた結果、客単価平均が前年同期を15円下回って、利益が出なくなりました。経営を圧迫していることは事実です」(同前)
その結果、看板商品とは思えない“逆販促”が行なわれることとなる。中華そばをできるだけ注文されないようにするという策がとられたのだ。
「それまでメニューの表紙を飾っていた中華そばを目立たない位置に動かしました。注文率を下げるための措置です」(同前)
店舗でメニューを見ると、確かに店名にまで掲げている看板商品は、メニュー表の右下隅で肩身が狭そう。同社HPの「イチオシ!メニュー」にも登場しない。
※週刊ポスト2014年12月19日号