同社はこれまで宅急便の個数を元に、社内で需要予測を立て、仕事量を予測して、作業の手配をしてきた。しかし、シェア獲得競争のため、サイズという概念が抜け落ちてしまった。同社の長尾常務は次のように説明する。
「これまでは、大きな荷物であっても(運賃が一番安い)六〇サイズで計上することが少なくなかった。そのため、取り扱い容量が把握できなくなっていた。それが、クール宅急便の不祥事を招いた大きな原因になった。その反省から、個数はもちろん、サイズも正しく計上しそれに見合った適正な運賃をいただこうと荷主企業と話し合いを進めている」
トップ二社が運賃適正化という事実上の値上げ交渉の結果、取扱個数を減らしている中、“漁夫の利”を手にしたのが日本郵便だった。二〇一五年三月期の中間決算で、ゆうパックの取扱個数は対前年比で一四%増の二億三〇〇〇万個の独り勝ちとなった。
その日本郵便が今期、ヤマト運輸の牙城を切り崩す武器としたのが、二〇一四年五月に発売した〈ゆうパケット〉だ。ヤマトが最も得意とする六〇サイズの荷物に的を絞り、判子のやり取りなく投函するだけの商品で、定価は宅急便の半額以下となっている。こうしてトップ三社による果てしない価格競争が続いている現状は、「宅配ビッグバン」と呼ばれている。
いまや宅配便は社会のインフラとなっており、その利便性は広く享受されている。しかし、今回の取材で私は多くの現場に足を運び、現場の話に耳を傾けてきた。その結果、トップ三社による値下げ合戦のため、宅配便を取り巻く環境は日に日に厳しさを増し、ところどころに綻びが目立ってきた。このまま消耗戦を続けるなら、宅配便の仕組みを維持することが難しくなっているようにみえてきた。
※SAPIO2015年1月号