水戸岡鋭治がデザインしたクルーズトレイン「ななつ星in九州」(以下、「ななつ星」)が運行を始めて1年数か月、車両の完成度の高さゆえ、その人気は衰えることなく、チケットの入手困難な状態が続いている。水戸岡鋭治氏は、文字通り全身全霊をかけて「ななつ星」に挑み、究極の車両を作り上げた。ノンフィクションライターの一志治夫氏が水戸岡氏に話を聞いた。
──JR九州の「ななつ星」人気が相変わらず続いてますね。
この間、「ななつ星」のエッセイ、写真、映像、絵の4つのコンテストがありました。それぞれの一等賞の方が招待され、「ななつ星」に乗られたんですが、そのエッセイが「乗らずに死ねるか」というタイトルで書かれていたんです。重病の男の方が、「ななつ星」のテレビ番組を見て、元気が出た、と。そして、奥さんと2人で乗ることを目標にしたときから、いままでしぼんでいたのが急に元気になったという素晴らしいエッセイでした。
僕はそれを読んで感動して、もし、そういうことが起きるんだとすれば、デザイナー冥利に尽きると感じました。デザイナーは、人が辛いとか、苦しいと感じることをクリアするために、いかに一等品を作るかというのが仕事ですから、そういう話を聞いて、もしかしたら「ななつ星」も一等品になったのかな、という誇りみたいなものを改めて持ったんです。
僕たちがとんでもないエネルギーをかけて、死にもの狂いで作ったモノを、周囲の人たちが見たときに命を感じてくれて、私たちの思いを理解してくれて、次の時代を一緒に生きていくエネルギーを共有できたこと、それが素晴らしいなと思いました。
──それは、渾身の力を込めたからこそ得られた結果ですよね。
そう思います。でも、そこには、渾身の力を込めないとできない課題を決めたリーダーがいるんです。僕たちデザイナーは、お金もないし、ステージもないし、人も持っていない。お金もステージも人も持っているリーダー、つまり、JR九州の唐池恒二会長(当時は社長)が勇気ある決断をして、未だかつてないものを作ろうと、引っ張ったわけです。
リーダーが号令をかけると、それに共感して、命懸けで頑張る人はいっぱいいる。そのステージを作るのがリーダーの仕事なんです。リーダーは、本来、長い時間をかけて教養を身につけ、社会や会社の先輩や友人からいろいろなものをもらって、それを培ってきた人です。だから、リーダーは、夢に向かって何かを決めなきゃいけない義務を背負っている。
にもかかわらず、日本では、その義務を遂行するリーダーがなかなかいない。けれども、JR九州では、「ななつ星」という列車をリーダーの号令のもと、30億円以上かけて作ってしまったわけです。
※SAPIO2015年2月号