自宅には自分の部屋はなく、トイレだけが唯一、一息つける空間という人は少なくないだろう。都内に住む50代会社員のA氏もそのひとりだ。残業を終えて帰宅し、風呂の前にトイレに入るのが日課という。ポケットからスマホを取り出し、お気に入りの無料動画サイトを開くと、まず「新着」をチェック。サンプル画像から好みのタイプの女性が出演しているものを選んでタッチ。それだけで再生が始まる。
「イヤホンを片方だけして、家族に声をかけられた時は聞こえるようにしておくんです。10分くらい楽しむだけなら家族も怪しむことはありません。もし家族が寝ていたら、1時間近くゆっくり“動画サーフィン”することもあります」(A氏)
“大人の動画”は時代とともに変化してきた。古くはVHSビデオテープに始まり、DVDへと進化。レンタルビデオ店のAVコーナーがその“供給元”だった。その後、インターネット上にある動画コンテンツをダウンロード、そしてブロードバンド時代に入ってストリーミング(端末に保存せず、受信しながら再生すること)で楽しむ方法が普及したのは、ここ数年のことだ。
ネットによる動画閲覧はパソコンで始まったが、ここ1年ほどで「スマホシフト」が一気に進んでいる。専用端末だから家族が見る心配はないし、持ち運びも簡単。トイレやベッドの中でも鑑賞できるほか、最近では画面が大型化・高画質化していて映像のクオリティも高い。防水機能が当たり前になったので、「風呂で誰にも気兼ねせず見られるようになった」(A氏)。
それを通信技術の進歩が後押しした。スマホの高速通信規格である「LTE」が一般的になったことから、高画質な動画を見てもカクカクしたり止まったりすることが減り、快適に閲覧できるようになっている。だから、これまでPCで見ていたユーザーが一気にスマホシフトしたのである。
メディア視聴行動を分析する「ニールセン」社の調査によれば、2013年から2014年にかけての1年間で、動画サイトやオンラインショッピングサイトなどの閲覧数は、スマホからのアクセスがパソコンを上回ったという。
もちろんサイト運営側はスマホユーザー獲得に必死だ。あるエロ動画サイト管理者はこう語る。
「無料サイトの収益源は広告です。何回クリックしてもらうかが勝負になる。現状では、表示された広告のうちクリックされる回数の割合は、パソコンとスマホで6対4くらいですが、スマホはどんどん伸びています。スマホ先進国のアメリカでは、スマホがパソコンの2倍の広告クリックを叩き出すというデータもある。日本でも今後そうなると見て、スマホサイトの開設を急ぎました」
※週刊ポスト2015年2月20日号