「ある意味でこの昇格人事が実現したならば、異例中の異例となります。なぜなら昭和54年入省組では、三人目の次官誕生となるからです。それもこれも、安倍首相の強い意向が働いたと見ていいでしょう」(財務省幹部)

 結局、前述の会合がお開きになるまで4時間近くの時間を要したという。もし仮に世に伝えられているように、安倍首相と財務省が激しく対立していたならば、こんな形での食事会は開かれていなかったはずだ。もっともほとんどのメディアはこの会合について完全にスルーしているのだが……。

 しかしだからと言って、消費再増税の先送りを巡って安倍首相と財務省との間に、何の齟齬も無かったというわけではない。この一件はまったく表面化していないが、実はあることを巡って安倍首相は、財務省幹部を厳しく叱責したのだという。

 2015年10月の消費再増税の可否を判断する上で、最も重要な指標となるのが昨年7~9月期のGDP統計だったことは知られた話だ。当初財務省はその数値についてプラス4%程度になる見込み、と安倍首相に報告していた。ところがいざ結果が出てみると、マイナス1.6%(速報値)と、財務省の想定を大きく下回ることになってしまった。

 そこで安倍首相は財務省に対して、「話がちがうじゃないか」と激しく叱責したという。しかしむしろそのことで、再増税を先送りする流れが出来あがったと見ていいだろう。財務省にしても、自らの予測が大きく外れた以上、再増税が難しいことは百も承知だ。つまり安倍首相と財務省が対立しなくてはならない理由は、どこにも無かったのである。

 がしかし、「あの財務省に勝った安倍首相」というストーリーが広く流布したことで、間違いなく首相の株は上がった。首相側近が仕掛けたイメージ戦略は、実に巧みだった。

文■須田慎一郎(ジャーナリスト)

※SAPIO2015年3月号

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