「近年、ここまで親子間で解任騒ぎになったり、訴訟沙汰になったりと“お家騒動”が泥沼化する企業も珍しいよ」
古株の経済記者でさえ首をひねるのは、大手家具メーカー・大塚家具の経営権争いだ。
2月26日に創業者の大塚勝久会長が記者会見を開き、娘である大塚久美子社長の解任動議を取締役会で諮った(賛否は可決されず)うえ、大塚家の資産管理団体(キキョウ企画)の保有株を巡り、久美子氏に株式の返還を求める民事訴訟を起こしたことを発表した。
こうした常軌を逸した創業者の行動に対し、久美子氏は翌27日に「中期経営計画の説明会」を表向きとする“反論会見”を開いた。
「会社は発展していく段階の中で、どこかで創業者の庇護(ひご)から離れなければならない限界の地点が否応なしに来ます。その切り替え、転換をいかにスムーズにするか。今回のタイミングはギリギリだと考えている」
こう述べた久美子氏は、勝久氏を社内取締役からひきずり降ろすガバナンス(企業統治)体制を組む方針を明らかにし、3月に開かれる株主総会で議決権行使の「委任状争奪戦」も辞さない決意を新たにした。まさに親子の“全面戦争”が勃発した格好だ。
そもそも事の発端は、勝久氏が成長の原動力として続けてきた「会員制」による販売方式に対し、時代に合わないと反発してきた久美子氏の経営方針の相違にあったはず。にもかかわらず、最近の大塚家具が会員制に頼らず、誰でも自由に入店できるシステムも採っており、ここまで揉めなければならない原因だったとは考えにくい。
経済ジャーナリストの松崎隆司氏もこう指摘する。
「中期経営計画ではビジネスモデルの再構築として、会員制の見直しを含めたブランディングの強化を挙げていましたが、具体策もなく、むしろ従来の経営スタイルとどこが違うのか分かりませんでした。そんな小手先の改革で、久美子氏が掲げた今期の黒字化と株主配当金の倍増が実現できるのか大いに疑問です」
ならば、親子間の確執にはどんな狙いや思惑があるのか。
双方がはっきりと明言していないので推測に過ぎないが、父親側につく長男(勝之氏・専務)と久美子氏の相続争いや、久美子氏に賛同する株主のファンドやM&Aコンサル企業による会社乗っ取りのシナリオなどが、まことしやかに囁かれている。
何よりも、ガバナンスの問題というのであれば、そうした疑念を晴らす説明責任が久美子氏の側にもあるはずだ。前出の松崎氏がいう。
「経営計画で書かれていた社外の取締役や監査役の選出はどこの企業でもやっている話で、それによって会社が一気に生まれ変わるとは限りません。まずは一連の父親との確執は何が原因で、どうやって解決するのかといった説明をきちんとしなければ、ガバナンスの議論も始まりません」