「歩きスマホ」の危険性を訴えるため、一般社団法人電気通信事業者協会は3月2日から「やめましょう、歩きスマホ。」啓発キャンペーンを実施。北海道から九州まで、日本全国の主要駅の構内ビジョンで啓発メッセージが表示されている。歩きスマホをしている人に車のクラクションを鳴らした結果、スマホを落として破損してしまった場合、弁償するべきなのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
女性が信号機のない横断歩道をスマホを操作しながら歩いていました。危ないと思いクラクションを鳴らしたところ、その音に驚いた女性がスマホを落としたのです。結果、画面にヒビが入り弁償しろと詰め寄られました。スマホをいじっていた彼女に非があると思うのですが、弁償しなければいけませんか。
【回答】
意識してクラクションを鳴らしたことが、当該歩行者に対する不法行為になるか、また驚いてスマホを落としたことが、その不法行為により予見できる事態として責任の範囲内かの問題です。
車の警笛の使用方法は、道路交通法第54条で規定されています。これに従った使用であれば適法な行為ですから、不法行為になりません。同条は1項で、道路標識で警笛吹鳴が指示された場所や指定された区間内の見通しが利かない交差点などを通行する場合には、警笛を鳴らす義務があるとしています。
しかし、2項でこれらの義務がある場合を除き、「警音器を鳴らしてはならない」と原則としてクラクションの使用を禁止し、「危険を防止するためやむを得ないときは、この限りでない」の例外を認めるだけです。ご質問の場合、警笛吹鳴義務がある場所でなければ、2項の例外に該当するかが問題になります。
つまり、クラクションを鳴らして、衝突を避けなければならない状況にあったといえるかです。「危ないと思い」とのことですが、信号機のない横断歩道上に歩行者がいれば、もともと一時停止義務があり、警笛を鳴らすのは、女性が突然飛び出したような例外的な場合以外はありえません。一般に、歩きスマホは危険ですが、この女性は飛び出したわけでもなく衝突の危険もなかったようですから、先の2項の例外には当たりません。
注意喚起のために鳴らしたのですから、女性が驚くのは当然で、彼女に対する不法行為になります。ですが、スマホを落とすことまで予見できたかは別問題です。クラクションの鳴らし方にもよるかもしれません。とはいえ、道交法に違反してクラクションを鳴らせば、2万円以下の罰金か科料という制裁もあります。ここは弁償して、治めた方がよいと思います。
※週刊ポスト2015年3月20日号