「額で受けただけなのに、衝撃で首や膝が砕けるかと思いました。思わず動きが止まってしまうほどグラッときてしまった。その後は袋叩きです。全く立て直すことができませんでした」(寺尾氏)
その一撃が惨劇の幕開けとなった。直後にダウンし、さらに2分4秒にパッキャオの左ストレートがヒットして2度目のダウン。寺尾氏は大の字になって背中から倒れる。そして1R終了のゴングが鳴る直前、壮絶なパンチの雨を浴びて倒れ込み、KO負けとなった。粗削りではあるが、現在のパッキャオを彷彿とさせる戦いぶりだった。寺尾氏が振り返る。
「踏み込みもパンチも何もかもが違いました。踏み込みは鋭く、絶対にパンチが届かないはずの2~3m離れた安全地帯にいたつもりでも、一瞬で間を詰められて目の前に現われる。あり得ないスピードですよ。
そしてパンチが堅くて重い。まるで鉄パイプで殴られる感じでした。もっといえば交通事故で車にぶつかった衝撃。よく、パンチは根性で耐えろといいますが、交通事故は根性では耐えられない。パッキャオのパンチは、それほどまでに破壊力があったのです」
寺尾氏は最初のダウンから立ち上がった直後、ロープ際に詰められて片膝を上げて防戦している。これはキックボクシングの防御法だ。失神こそしなかったが、意識が朦朧とした状態で“古巣”のクセが出てしまうほどに追い詰められていたのだ。
※週刊ポスト2015年4月10日号