国際情報

先進国のAIIB参加 バスに乗り遅れまいとの群集心理から決定

 英仏独をはじめ世界57か国の参加が決まった中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)。当初は二流の国際銀行と呼ばれたにも関わらず、国連の常任理事国をはじめ多くの国が参加を決めたのはなぜなのか。ジャーナリストの相馬勝氏がリポートする。

 * * *
 当初はアジアや中央アジアの発展途上国で構成される「二流の国際銀行」(在京外交筋)との位置づけだったAIIBだが、中国指導部による外交攻勢が功を奏したこともあって、英国が3月12日に参加を表明したことで、がらりと流れが変わった。

 欧州主要国が次々と加入申請し、結果的に国連の5常任理事国中、米国を除く4か国や経済協力開発機構(OECD)加盟34か国中18か国、ASEAN加盟10か国すべてを含む計52か国・地域が参加を申請。その後、駆け込み申請国も含めて57か国が認可された。

 大きなターニングポイントとなった英国の参加を決めたのは、キャメロン英首相の懐刀で、次期首相の有力候補と目されるオズボーン財務相だった。英紙「フィナンシャル・タイムズ」によると、英国経済が低迷するなか、オズボーン氏は中国を世界の新たな経済大国とみなし、戦略地政学的な影響については政府の国家安全保障会議(NSC)で議論されなかった。関係機関に文書が1枚配られただけであり、英外務省首脳は同盟国との相談が十分でなかったことに驚いたというほどだ。

「他の先進国も目の前の利益を逃さないために、『バスに乗り遅れまい』との群集心理にも似た決定をした」と在京外交筋は指摘する。

 それでは、アジアでのインフラ投資需要はいかばかりか。アジア開発銀行(ADB)は2010年から20年までの10年間で、8兆ドル(約1000兆円)、年間で8000億ドルと見込んでいる。AIIBはアジアの新興国に鉄道や道路、発電所などのインフラ設備の建設資金を融資する目的で創設されるだけに、いまのところ参加を決めていない日本政府に対して、産業界から「このままではアジア諸国のインフラ建設事業参入に乗り遅れる」との声も出ている。

 日本政府は【1】融資基準を明確にすべき【2】参加国に発言権はあるのか【3】アジア開発銀行など既存の国際機関と協力はできるのかなどを中国側に問い合わせていた。しかし、参加申請締め切りの3月末までに返事がなく、態度を留保している状態だ。

 これについて、在京の外資系金融関係者は「返事がないというよりも、具体的には何も決まっていないので、言い出しっぺの中国ですら、返事ができないというのが実情だろう」と指摘する。AIIBの組織形態などについてほとんど情報がないにもかかわらず、アリが蜜に群がるように、この莫大な資金需要を目当てに、アジアを中心に欧州や中東から我も我もと名乗りを上げたというのが真実に近いのではないか。

※SAPIO2015年6月号

関連キーワード

トピックス

男性部下と“ホテル密会”が報じられた前橋市の小川晶市長
「青空ジップラインからのラブホ」「ラブホからの灯籠流し」前橋・42歳女性市長、公務のスキマにラブホ利用の“過密スケジュール”
NEWSポストセブン
自民党総裁選のインターネット討論会に出席する小泉進次郎農林水産相(右)。左は高市早苗前経済安全保障担当相=9月30日、東京・永田町の同党本部(時事通信フォト)
《「去年より渋みが増したか」》小泉進次郎氏、ステマ問題で総裁選への大きな影響なし? 追及しない他の4候補は「問題を長引かせたくない」が本音か
八田容疑者の祖母がNEWSポストセブンの取材に応じた(『大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会』公式Xより)
《別府・ひき逃げ殺人の時効が消滅》「死ぬ間際まで與一を心配していました」重要指名手配犯・八田與一容疑者の“最大の味方”が逝去 祖母があらためて訴えた“事件の酌量”
NEWSポストセブン
ファーストレディー候補の滝川クリステル
《ステマ騒動の小泉進次郎》滝川クリステルと“10年交際”の小澤征悦、ナビゲーターを務める「報道番組」に集まる注目…ファーストレディ候補が語っていた「結婚後のルール」
NEWSポストセブン
新井洋子被告(共同通信社)
《元草津町議・新井祥子被告に有罪判決の裏で》金銭トラブルにあった原告男性が謎の死を遂げていた…「チンピラに待ち伏せされて怯えていた」と知人が証言
NEWSポストセブン
東京・表参道にある美容室「ELTE」の経営者で美容師の藤井庄吾容疑者(インスタグラムより)
《衝撃のセクハラ発言》逮捕の表参道売れっ子美容師「返答次第で私もトイレに連れ込まれていたのかも…」施術を受けた女性が証言【不同意わいせつ容疑】
NEWSポストセブン
昨年、10年ぶりに復帰したほしのあき
《グラドル妻・ほしのあきの献身》耐え続けた「若手有望騎手をたぶらかした」評 夫・三浦皇成「悲願のG1初制覇」の裏で…13歳年上妻の「ベッドで手を握り続けた」寄り添い愛
NEWSポストセブン
「ゼロ日」で59歳の男性と再婚したという坂口
《お相手は59歳会社員》坂口杏里、再婚は「ゼロ日」で…「ガルバの客として来てくれた」「専業主婦になりました」本人が語った「子供が欲しい」の真意
NEWSポストセブン
愛されキャラクターだった橋本被告
《初公判にロン毛で出廷》元プロ棋士“ハッシー”がクワで元妻と義父に襲いかかった理由、弁護側は「心神喪失」可能性を主張
NEWSポストセブン
水谷豊
《初孫誕生の水谷豊》趣里を支え続ける背景に“前妻との過去”「やってしまったことをつべこべ言うなど…」妻・伊藤蘭との愛貫き約40年
NEWSポストセブン
滋賀県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年9月28日、撮影/JMPA)
「琵琶湖ブルーのお召し物が素敵」天皇皇后両陛下のリンクコーデに集まる称賛の声 雅子さまはアイテム選びで華やかさを調節するテク
NEWSポストセブン
祭りに参加した真矢と妻の石黒彩
《夫にピッタリ寄り添う元モー娘。の石黒彩》“スマホの顔認証も難しい”脳腫瘍の「LUNA SEA」真矢と「祭り」で見せた夫婦愛、実兄が激白「彩ちゃんからは家族写真が…」
NEWSポストセブン