先日、東京・永田町のあるビルで、国立の研究所内にある自殺予防総合対策センターが、今年初めてのメディアカンファレンス(マスコミ関係者向けの会議)を開催した。数年前からたまに出席させてもらっているのだが、今回のテーマは若年者の自殺対策だった。

 日本の自殺者数は、1998年からずっと年間3万人を突破していたのが、2010年頃から減り始め、2012年には15年ぶりに3万人を下回り、今も減少傾向にある。だが、自殺数が減っているのは中高年層で、若年者の場合はそうじゃない。20歳未満の自殺死亡率は横ばいで推移しており、15歳から39歳の年代層における死因の第一位は自殺。これは他の先進国にはあまり見られない現象である。

 なぜ、多くの日本の若者が自殺するのか。カンファレンスで配られたA4で168ページの論文集『若年者の自殺対策のあり方に関する報告書』(同報告書のPDFはネット上で自由に入手可)の「はじめに」にはこうある。

〈特に小中高校生の年代における自殺は家族や学校だけでなく社会全体に与える衝撃や負の影響が大きいため、その実数の多寡だけで議論できないという年代特有の側面を持っている。しかし今まで若年者の自殺の実態や対策について科学的な観点から多角的に検討した研究はほとんどなされてこなかったと言ってよい〉

 そうなのだ。カンファレンスでの登壇者たちの話を聞いても、この『報告書』を読んでも思うことは、「若者の自殺については、調査も研究も始まったばかりで、わからないことだらけだ……」という壁の厚さだった。精神科医や心理学者や社会学者や自殺問題に関係する各分野の先端を走っている専門家たちが集まっても、日本の若者の自殺が減らない理由や、その自殺対策をどうすべきか、パシッと答えが出るわけじゃない。

 ただし、そうした気鋭の専門家たちが、自殺研究というあまり日の当たらない、頑張っても報われることの少ないテーマを追い始めていること自体は喜ばしいし、グーグルのような巨大企業が自社の技術を公共的に活用し始めたというのも確かな前進なんだと思う。

 世界は必ずしも善意で満ちていないが、営利だけで動いているのでもない。弱っている人を切り捨てるだけではないのである。

 もしこのコラムを読んでくれた方の周囲に「死にたい」若者がいたり、あるいは読者自身が「死にたい」人だとしたら、そう簡単に問題は解決しないかもしれないけれど、キミらのことをマジに考えている人もいるよと伝えてほしいし、その程度には世界が広いことを知ってほしい。

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