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「死にたい」とググってみたら、電話番号が表れる件について

 日本の自殺者数は減っているが、15歳から39歳までの死因の第1位は自殺という。しかし若年層の自殺についての研究はまだ始まったばかり。コラムニストのオバタカズユキ氏が考える。

 * * *
 この記事を読み始めた方はほぼ全員がネットにつながる端末をお持ちのはずだから、以下をさっそく試してほしいと思う。

 グーグルの検索窓に、「死にたい」と打ちこむのだ。すると、端末がスマートフォンならトップに、PCでも2番目ぐらいに、それぞれデカデカと、「こころの健康相談統一ダイヤル」という名称とその実際の電話番号、ウェブサイトのURLリンクなどが表示される。

 他にも、「首つり」と検索したら同じ表示が出てくる。グーグルがこの仕組みを導入したのは、わりと最近のことのようだ。

 当該サイトの説明によれば、「こころの健康相談統一ダイヤル」は、〈より多くの人が相談しやすい体制の整備を図る観点から、平成20年9月10日より、都道府県・政令指定都市が実施している「心の健康電話相談」等の公的な電話相談事業に全国共通の電話番号を設定〉したものだ。それがグーグルとつながったというのは、国の自殺対策に世界最大の検索エンジンが協力し始めたということである。

 表示についてネット上での反応を拾ってみると、ややネガティブなものも混じる。どんな気持ちで「死にたい」と打ちこんだのか、〈google先生に「こころの健康相談統一ダイヤル」紹介されるってのクッソ笑う〉という具合に吐き捨てている人がいる。電話相談がいつもつながらないことを嘆いている人もいる。

 もしそれが自分の役に立つとは思えない人ならば、グーグルの「こころの健康相談」誘導に対して「余計なお世話だ」と思うのは自然なことだ。また、行政が実施しているものだけでなく、いのちの電話などの民間電話相談を含め、その手の「無料サービス」にはなかなかつながらないのも事実だ。自殺をしたい気持ちの相談にのる専門家もボランティアも決定的に足りないことが、その最大の原因としてある。人手不足(≒予算不足)でつながらないのに、グーグルがそんな仕組みを導入したら余計に混乱するだけじゃないか。そうとも言える。

 けれども、せっかくグーグル検索してもらったのだから、実際に「死にたい」と打ちこむ人について少し考えてみようではないか。ツイッターなどのSNSや、ヤフー知恵袋などのQ&Aサイトで悩みを相談、もしくは怒りや悲しみを訴える行為はまだ理解しやすい。そこには不特定多数の中の誰でもいいから自分の気持ちを聞いてほしいという欲求がある。

 だが、それに対して検索窓はただの機械の入り口。その向こうに誰が待機しているわけでもない。直接、人間のレスが返ってくることは期待できない。なのに「死にたい」と打ちこむ心境はどんなものなのか。

 聞いてほしい、でも、聞いてほしくない。自分なんかの気持ちを聞かせて、他人の気分を害したくない。呆れられたくないし、それより同情されたくない。無視はもっと嫌だ。一人でいたい。でも、これ以上、一人ぼっちでいられない。

 おそらく彼や彼女が直面しているのは、何を考えても堂々巡りになってしまい、前向きになろうと思ってもその気持ちを駆動させるだけの自己肯定感が見当たらない辛さだ。その辛さに耐えきれなくなって、なんら返ってくるものがないと分かっていながら、検索窓に「死にたい」と打ちこむ。イメージすると、かなりギリギリな心境が見えてこないだろうか。発作的、衝動的で、自己破壊寸前の危うさを感じないだろうか(「首つり」検索は具体的な自殺方法の調査や確認なのだから、より切迫している可能性が高そうだ)。

 ならば、そうしたギリギリの人が、「死にたい」「首つり」と検索した瞬間に、デカデカと「こころの健康相談統一ダイヤル」が表示されることには、多少なりとも意味があると思うのだ。意表を突くように具体的な相談先が明示されたら、発作的、衝動的な心の暴走スピードがゆるむかもしれない。自分の名前を明かさずに自殺の話ができる機関のあることを、そこで始めて知る人も実は大勢いるだろう。

 たとえなかなかつながらなくても、社会の中にそのような自分を受け入れようとする存在があると知ることはきっと無駄ではない。世の中のすべてが自分を嫌っているわけじゃない。なんとかしたいと対策を探っている人たちだっている。その事実を知るだけでも楽になる効果はあると思うのだ。

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