「人気というのは一過性だと思っているから、それに乗ったらいかんというのはある。それと、アッという間にスキャンダラスな俳優になっちゃったからね。
人の評価に乗らないように、というのは今でもあるな。そうやっていかんと、この世界は生きていけんよ。だって俺が『絶対に良かった』と思っても誰も評価しないということもあるし、『大したことねえや』というのに『よかった』と言われて『何を言ってるんだ。知らんくせに』と思うこともあるからね。
役者というのは需要があって初めてできる商売なんだよね。需要がないとしたら、自分が悪いんだよ。結局は自己責任。
いい演技も、いい見た目も、十年も見続けたら人は飽きる。だから、そうならない商品でなければいけないとは常に思っているよ。役者は商品なんだ。
いい商品であり続けるには、どうしたらいいか。それは、いい芝居をすればいいということではないと思う。いい芝居も十回見たら『くさっ』と思われるからね。でも、何かサムシングがあれば、人はまた見たがってくれるんじゃないかな。せめて、精神的にはそうありたい。それでダメならしゃあないわ。
そうやって偉そうに言っていても、俺も来年にはいなくなっちゃうかもしれないし。若い頃には『俺には二十一世紀は来んやろ』と思っていたからね。それが、アッという間に五十代を過ぎた。結局は、運だよ」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2015年6月5日号