ライフ

「ショートショートの神様」星新一の孫弟子が紡ぐ18の物語

【書評】『家族スクランブル』田丸雅智/小学館/1404円

【評者】末國善己(文芸評論家)

 ショートショートは、斬新なアイディアと予測もつかない結末を、原稿用紙20枚くらいの短い分量で描くジャンルで、星新一、都筑道夫、筒井康隆、阿刀田高といった有名な作家も得意としていた。

 昨年、初の単行本『夢巻』と第2作品集『海色の壜』を立て続けに刊行した田丸雅智は、ショートショートの若き新星として注目を集めている。そんな著者の最新作は、家族を題材にした18編を収録している。

 ふくらませるとカエルの鳴き声がするガムで父子が交流する「カエルガム」は心温まる話。分身が作れる石鹸で妻が積極的な人格と慎重な人格に分裂、夫が合計3人の妻と暮らし始める「白妻、黒妻」はブラックユーモア。少年時代のノスタルジックな思い出が、宇宙の秘密と繋がる壮大さが光る「惑星釣り」。老人が、亡き妻にそっくりな金魚に夢中になる「おいらんちゅう」が幻想小説になっているなど、収録作はファンタスティックな物語にバラエティー豊かな味つけがなされているので、必ず好みの作品が見つかるのではないか。

 本書の収録作は、珠玉と呼ぶに相応しい傑作ばかり。ただ、その中でも、渋ガキを干して甘くするのではなく、違うガキを干す「干ガキ」、たんすに入れたまま着ない服の意味ではなく、文字通りこやしが必要なたんすが出てくる「箪笥のこやし」、吸血鬼ならぬ、血で育つ木が登場し、ラスト1行にゾッとさせられるホラー「吸血木」など、一種の言葉遊びの中に奇想天外なアイディアを詰め込んだ作品は、特に完成度が高い。

 日常とは別の不思議な世界を描きながら、どこか懐かしく温かい物語には、魅了されてしまうだろう。

※女性セブン2015年6月11日

関連記事

トピックス

モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁/時事通信)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト