MLBには今でも「ザ・コール」という言葉で語り継がれる有名な誤審がある。
カンザスシティ・ロイヤルズとセントルイス・カージナルスとの間で行なわれた1985年のワールドシリーズ第6戦。3勝2敗で王手をかけたカージナルスが、1対0とリードして9回裏のロイヤルズの攻撃を迎えた。
先頭打者の打ったゴロを一塁手が捕り、ベースカバーに入ったピッチャーにトス。タイミングは明らかにアウトだったが、一塁塁審のドン・デンキンガーは「セーフ」をコールした。カージナルスは猛抗議するが判定は覆らない。試合が再開されると、ロイヤルズに2点を奪われ、逆転サヨナラ負けを喫する。
ワールドシリーズでは審判は時計回りにローテーションする。そのため、翌日の第7戦ではデンキンガーが球審を務める。カージナルスは審判を代えるよう求めたが認められず、試合は殺気立った雰囲気で始まった。
カージナルスは序盤からピッチャーが打ち込まれ、5回で0対11と絶望的な大差をつけられる。その上、リリーフで登板したピッチャーがストライクと思えた球をデンキンガーにボールと判定されると、監督が激高して猛抗議し、退場処分を受けてしまう。さらにピッチャーも次の球の判定に怒って抗議し、退場。試合は0対11のまま終了し、ワールドチャンピオンの栄冠はロイヤルズが手にした。
カージナルスにしてみれば第6戦の誤審で歯車が狂い始め、優勝を逃したことになる。そのため、地元セントルイスでは「チャンピオンシップがデンキンガーに奪われた」と大騒ぎし、誤審のシーンが繰り返しテレビで放送され、“アウトの瞬間”のポスターまで作られた。ついにはデンキンガーに脅迫状が送られてFBIが捜査する事態に発展する。
MLBではそれから23年後の2008年からホームラン判定に限定して、2014年からストライク、ボールの判定を除くプレーについて、ビデオ判定が導入された。
※週刊ポスト2015年6月19日号