火野の柔らかい芝居を見ていると、いつも現場での感覚で演じているように思えてくる。
「最初にプロデューサーがいろいろ言うけど、『分かったから、とにかく台本を持ってこいや』と言ってるんだ。台本をどう崩し、どう面白くするかが俺たちの仕事だから。この人物はこう、と決めてかかっても、現場に入ったらもろくも崩れるんだよ。
それから、11本のシリーズだったら1本目と6本目では演じ方は違うんだ。1話目は顔見世だから、お客さんの興味を引くためにはあまり出しゃばっちゃいけない。でも6話目になると『お客さんも飽きてきているだろうから、じゃあ、こうしよう』とか。トータルで考えて一つの作品だと思っているから。
お客さんに飽きないで見てもらうためには、俺が飽きないことだと思う。画に出るのさ、そういうのは絶対にね。自転車の番組もそう。飽きてないんだ。
自分は先天的に引き出しが山盛りある人だよな。そう思わなきゃしょうがないじゃないの。今はここを歩ける。それでも、まだこっちの道もある。そういう風に自分自身で思っていかなきゃ、俳優なんてできないよ。これが最後の引き出しとか一度でも思ったら、もうやれない。思い込むしかないんだ。まだまだ引き出しはある。あるように見せていくんだよね」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館刊)が発売中。
※週刊ポスト2015年6月26日号