スポーツ

松井を5連続敬遠した投手 「観客より監督の方が怖かった」

現在は社会人野球「千葉熱血Making」監督の河野和洋氏

 1992年夏の甲子園大会、“怪物”と呼ばれた星稜(石川)の4番・松井秀喜に対し、明徳義塾(高知)が選択したのは「全打席敬遠」だった。満員のスタンドからメガホンが投げ込まれ、「帰れコール」の雨。試合後も騒動は収まらず、宿舎には抗議の電話が殺到した。その時、マウンドに立っていたのが河野和洋氏だ。河野氏が当時を振り返る。

 * * *
 ブーイングという言葉をあの試合で初めて知りました。ただ、敬遠は馬淵(史郎)監督が勝つためにやった作戦で、私たちは指示に従った。ルール内ですから別に恥じることはないと思っています。当時は5万5000人を敵に回すより、サインを無視して監督を敵に回す方が怖かったですからね(苦笑)。

 私は背番号8。リリーフで投げていましたが、本職は外野手でした。試合の3日前に監督から呼び出され、「星稜戦の先発はお前で行く。松井は相手にしないからな」と告げられた。「わかりました」と返事したものの、「相手にしない」の意味がよくわかっていませんでした。

 試合前、今度は私と捕手が監督から呼ばれて「松井を敬遠するが捕手は座ったまま。あくまでもストライクが入らないという演技をしろ。首でも傾げておけばいい」と具体的な作戦を授けられました。敬遠のサインは監督が指を4本立てるという簡単なものでした。

 1打席目(初回)は2死三塁の場面だったので、敬遠気味の四球でも違和感なし。2打席目(3回)も1死二、三塁で問題はなかったが、1死一塁で迎えた3打席目(5回)あたりからはバレバレになった。スタンドからは「またか、勝負しろ」の怒号が飛び交い、「勝負」「勝負」の催促が沸き起こりました。

 ベンチ横でピッチング練習をしていると、ネットに顔を押し付けたおっさんに「お前死にたいんか、ぶっ殺すぞ!」と凄まれた。この時は本当に怖かった。4打席目、2死走者なしで歩かせた時もブーイングは凄かったが、最終回の5打席目に2死三塁で歩かせてピークに達した。スタンドからメガホン、帽子、ビールの空き缶などが投げ込まれ、試合が中断。星稜の部員が回収に走り、異様な緊張感が球場全体に張りつめました。

 監督も5回も敬遠することになるとは思っていなかったはずです。3点差なら勝負の選択もありましたが、本塁打1本で同点の場面。1発がある松井を歩かせる作戦は間違っていなかったと思いますが、ファンは許せなかったんでしょう。

●河野和洋(こうの・かずひろ):1974年、高知県生まれ。明徳義塾高3年時に甲子園に出場、松井秀喜を5回連続敬遠したことで話題となる。専修大を経て、現在は社会人野球「千葉熱血Making」監督。

※週刊ポスト2015年8月14日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

ギャンブル好きだったことでも有名
【徳光和夫が明かす『妻の認知症』】「買い物に行ってくる」と出かけたまま戻らない失踪トラブル…助け合いながら向き合う「日々の困難」
女性セブン
破局報道が出た2人(SNSより)
《井上咲楽“破局スピード報告”の意外な理由》事務所の大先輩二人に「隠し通せなかった嘘」オズワルド畠中との交際2年半でピリオド
NEWSポストセブン
男装の女性、山田よねを演じる女優・土居志央梨(本人のインスタグラムより)
朝ドラ『虎に翼』で“男装のよね”を演じる土居志央梨 恩師・高橋伴明監督が語る、いい作品にするための「潔い覚悟」
週刊ポスト
河村勇輝(共同通信)と中森美琴(自身のInstagram)
《フリフリピンクコーデで観戦》バスケ・河村勇輝の「アイドル彼女」に迫る“海外生活”Xデー
NEWSポストセブン
『君の名は。』のプロデューサーだった伊藤耕一郎被告(SNSより)
《20人以上の少女が被害》不同意性交容疑の『君の名は。』プロデューサーが繰り返した買春の卑劣手口 「タワマン&スポーツカー」のド派手ライフ
NEWSポストセブン
ポジティブキャラだが涙もろい一面も
【独立から4年】手越祐也が語る涙の理由「一度離れた人も絶対にわかってくれる」「芸能界を変えていくことはずっと抱いてきた目標です」
女性セブン
生島ヒロシの次男・翔(写真左)が高橋一生にそっくりと話題に
《生島ヒロシは「“二生”だね」》次男・生島翔が高橋一生にそっくりと話題に 相撲観戦で間違われたことも、本人は直撃に「御結婚おめでとうございます!」 
NEWSポストセブン
木本慎之介
【全文公開】西城秀樹さんの長男・木本慎之介、歌手デビューへの決意 サッカー選手の夢を諦めて音楽の道へ「パパの歌い方をめちゃくちゃ研究しています」
女性セブン
大谷のサプライズに驚く少年(ドジャース公式Xより)
《元同僚の賭博疑惑も影響なし?》大谷翔平、真美子夫人との“始球式秘話”で好感度爆上がり “夫婦共演”待望論高まる
NEWSポストセブン
綾瀬はるかが結婚に言及
綾瀬はるか 名著『愛するということ』を読み直し、「結婚って何なんでしょうね…」と呟く 思わぬ言葉に周囲ざわつく
女性セブン
中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン
やりたいことが見つかると周りがみえなくなるほど熱中するが熱しやすく冷めやすいことも明かした河合優実
大ブレイクの河合優実、ドラマ『RoOT/ルート』主演で感じる役柄との共通点「やりたいことが見つかると周りが見えなくほどのめり込む」
NEWSポストセブン