とはいえ、実際に効果があったのは、なぜでしょうか。日本の場合は、円安が進んだことがあります。日銀が量的緩和を行なえば、日本円というマネーが増え、その価値は下がるように感じられます。そうなると他の通貨、例えば米国ドルに対して価値が下がるわけですから、為替は円安になります。
円安が進むと株高というのが、日本の株式市場の経験則です。輸出企業が円安で儲かるから、という理由がよく挙げられますが、実際には輸出をあまりしない内需関連株も上昇しています。
これは二つの理由があって、海外投資家から見ると日本の株がドル建てで安くなって「お買い得」になることと、もう一つは円安なら株高というイメージが投資家の間に定着していることです。
実際には後者の心理的なコンセンサスが大きく、円安が進むと皆が日本株を買います。皆が買えば株価は上がります。その実績が積み上げられ、「法則」のように定着しますが、これは期待の自己実現が起きているだけです。
量的緩和で株が上がる、というのも同じことです。
量的緩和で株価が上がる、という実績が米国で積み上がったため、日本が量的緩和を拡大すれば日本株が上昇し、欧州で量的緩和が始まれば欧州株が上昇しました。投資家がそう思い込んで株を買い、その結果として株価が上がったのです。
●小幡績(おばた・せき)1967年生まれ。1992年東京大学経済学部卒、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2003年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授。『円高・デフレが日本を救う』など著書多数。
※週刊ポスト2015年8月14日号