もう一つ、懸念されるのが、お金をめぐるトラブルです。たとえ、会社が任意で着物での出勤を促したとしても、中には、「事実上の強制」ととらえる人もいるでしょう。着物を自分で着られる人は、非常に少ないのが実情です。
「着物出勤日を作るなら、着付け手当を出して欲しい」――労働者からこんな要求が出てくることも、容易に想像がつきます。
7月31日、東京・渋谷の商業施設が企画した夏祭りに合わせて、渋谷に本社がある東急電鉄など約20社が、「浴衣で出勤」イベントを行いましたが、会社内に着付け部屋を設置、着付け師を手配するなど、万全の体制を整えています。
要は、会社がコストをかけないと、着物出勤者は増えないということです。
「給料も上がらないのに、着物なんて買えるわけない!」
場合によっては、着物出勤をきっかけに給料面の不満に飛び火することだって、十分、ありえます。
「コスト削減で必死なのに、きもので出勤なんて、経産省はお気楽なことを考えるもんだ。もっとやることがあるだろう」――零細・中小企業の社長からこんな怒りの声を買いそうです。
着物で会社に出勤するきものの日の制定で着物を日常着に復活させようというのが経産省の狙いです。
経産省の旗振りで着物出勤を推進するのであれば、量販店に並ぶスーツの価格帯でオフィスにおける着物のドレスコードの模範となるような“ビジネス着物”の提案ぐらいは、あってしかるべきでしょう。
自由な服装での出勤を認めるカジュアルデーを設定している会社も数多くあります。カジュアルデーに着物で出勤を地道に推進したほうが、よほど着物が日常着に近づくのではないでしょうか。