ライフ

異物挿入者の受診 医師のマニュアルは「事情を深く聞くな」

 今年の夏は全国的に猛暑が続き、「熱中症により○○人が救急搬送された」というニュースが連日のように報じられた。しかし救急搬送された人の中には、思わず「なぜ?」と尋ねたくなるような人がいるのも事実だ。

 一風変わった症例に出くわしたとき、医師はどうやって治療法を決めるのだろうか。実は参考書がある。『マイナーエマージェンシー 原著第3版』(大淹純司監訳、エルゼビア・ジャパン/医歯薬出版刊)は、その名の通り「珍しい急患」にどう対処するかを11領域、184項目にわたって解説している。

 同書には「異物―直腸」という項目がある。そこには「肛門に入ったレモンや瓶、バイブレーターが取れなくなった」という場合の取り出し方が、図解入りで掲載されている。

 尻に異物が入って取れなくなり、困って病院に駆け込んでくる患者は一定数いるようだ。ほかにもバット、ビール瓶、電動歯ブラシ、キュウリやトウモロコシといった報告もある。救急搬送だけではなく、恥ずかしがりながら自分の足で来院する者も多いそうだ。

 肛門の異物挿入は男性が圧倒的に多い。実際に事例を診たことがある医師が話す。

「平日の昼間、スーツ姿のビジネスマンが腹痛で来院したんですが、問診や触診をしても原因がわからない。詳しく検査すると、なんとお尻の穴に電球が入っていたんです。家で入れてきたのか、外回り中に入れたのか、いつから入っていたのか……さまざまな疑問が頭をよぎりましたが、深くは聞かず治療に専念しました」(大学病院勤務の医師・仁科桜子氏)

 医師が診るうえでは「問診」が必要となるが、その時に大切なことがある。驚くようなモノが挿入されている場合でも事情を深掘りしてはいけない、ということだ。「どうしました?」という質問はこういう患者にとっては鋭利な刃物のように心に突き刺さる。患者が緊張して筋肉が萎縮してしまうと、異物が摘出しにくくなるのだ。同書にも、

〈患者に正確な話をするよう強要してはいけない。恥ずかしい思いをさせるだけ(後略)〉
〈患者をリラックスさせることが不可欠であり、異物の回収を成功させるためには通常鎮静が必要である〉

 と記述されている。

「それにそうなった理由を訊いても、たいていの患者は『風呂場で尻餅をついたところにたまたまレモンが落ちていた』だとか『暑かったので全裸で電球を取り換えていたら、台から足を踏み外して転んで偶然にも電球が尻に刺さった』といった説明をしてきます。だからあんまり参考になりません」(救急病院で働く40代女性看護師)

※週刊ポスト2015年9月4日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
水原一平容疑者は現在どこにいるのだろうか(時事通信フォト)
大谷翔平に“口裏合わせ”懇願で水原一平容疑者への同情論は消滅 それでもくすぶるネットの「大谷批判」の根拠
NEWSポストセブン
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
女性セブン
宗田理先生
《『ぼくらの七日間戦争』宗田理さん95歳死去》10日前、最期のインタビューで語っていたこと「戦争反対」の信念
NEWSポストセブン
焼損遺体遺棄を受けて、栃木県警の捜査一課が捜査を進めている
「両手には結束バンド、顔には粘着テープが……」「電波も届かない山奥」栃木県・全身焼損死体遺棄 第一発見者は「マネキンのようなものが燃えている」
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
ムキムキボディを披露した藤澤五月(Xより)
《ムキムキ筋肉美に思わぬ誤算》グラビア依頼殺到のロコ・ソラーレ藤澤五月選手「すべてお断り」の決断背景
NEWSポストセブン
(写真/時事通信フォト)
大谷翔平はプライベートな通信記録まで捜査当局に調べられたか 水原一平容疑者の“あまりにも罪深い”裏切り行為
NEWSポストセブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン
大谷翔平を待ち受ける試練(Getty Images)
【全文公開】大谷翔平、ハワイで計画する25億円リゾート別荘は“規格外” 不動産売買を目的とした会社「デコピン社」の役員欄には真美子さんの名前なし
女性セブン
眞子さんと小室氏の今後は(写真は3月、22時を回る頃の2人)
小室圭さん・眞子さん夫妻、新居は“1LDK・40平米”の慎ましさ かつて暮らした秋篠宮邸との激しいギャップ「周囲に相談して決めたとは思えない」の声
女性セブン
いなば食品の社長(時事通信フォト)
いなば食品の入社辞退者が明かした「お詫びの品」はツナ缶 会社は「ボロ家ハラスメント」報道に反論 “給料3万減った”は「事実誤認」 
NEWSポストセブン