外国人ゲストを迎えてのパーティ
トリップアドバイザーのステッカーを貼るなど受け入れに積極的だった宿泊施設や飲食店のなかには、訪日観光客との摩擦に疲れて対応を縮小させているところも少なからず出てきている。HPを日本語だけに戻す、外国語は英語だけにするなど、日本での流儀を理解する努力をしてくれるお客さんに限って受け入れる体制に組みなおしているのだ。
ホテルやレストランなどは受け入れ方法を変更しやすいが、いわゆる景勝地や遊び目的の場所ではそれも難しい。
「高尾山と富士山では無茶な服装や騒ぎ方、トイレではない場所で用を足すなど日本の常識から外れた行動をとる訪日客が少なくありません。神社や霊廟などでは禁則を犯す外国人への注意書きできりがないとも。また、渋谷のスクランブル交差点で動画を撮りSNS投稿するのが個人旅行の訪日客にとても人気がありますが、彼らが職場や学校へ向かって歩く日本人の邪魔にならないように撮影できているかどうか、疑問な点も残ります」(前出・向井さん)
2014年の訪日客数は1341万人、今年は1~6月までで916万人にのぼり、前年同期比で46.0%の増加を記録している。東京五輪が開催される2020年には2500万人に達するといわれており、政府は訪日外国人3000万人プログラムを唱えている。中国に次ぐ人口をもつインドへのビザ緩和も控えており、「訪日観光摩擦」が嫌だからと避けて通れるものではなさそうだ。
「これまで日本の観光業は、主に日本人を顧客とし、外国人客はプラスアルファの存在という考え方で行なわれてきました。アベノミクスの規制緩和政策のひとつとしてアジア向けに日本への入国ビザが次々と緩和されたことで、これからようやく本当の意味で訪日客受け入れが始まります。
英語など外国語を充実させることだけが国際化ではありません。ちょっと不便でも、様々な背景を持つ人たちに対応できる力をつけることが必要です。摩擦が起きているのは、いよいよ本当の日本国際化が始まったからだと思います。私は憂慮するだけではなく、むしろ歓迎することだと考えています」(前出・向井さん)
東京五輪でおもてなしの魅力をうたったが、「外国人旅行者に対する国民の態度」ランキングで日本は140か国中74位(世界経済フォーラム調べ。2013年)。訪日客の増加とともに訪日観光摩擦を乗り越え、自己満足ではない観光客との接し方が求められている。