怪談話は夏の風物詩に
今まで怪談を400話語ってきたけど、実話をもとにしているから、作るのが大変なんです。納得する答えを出すまで発表しない。中には作るのに10年以上かかるものもありますよ。実話を元にいろんな資料を調べていくから、時間がかかるの。怪談はホラーじゃなくて、もっと民俗学的なもだと私は思っていますから。
芸能界に入る前、元々私は工業デザイナーで、今でもコンペの審査員をしたりして、携わっているんですけどね。怪談はデザインと似ていますよ。デザインでは私、ストリートファニチャー担当なんです、噴水やベンチなどの道路の家具ですね。なにが人間に優しいか、なにが景色を美しくするのか。そして機能的でなくちゃいけない。怪談もよく似ていて、ただ怖いだけじゃいけなくて、思いやりがあって切ない。だから心惹かれるんです。
デザイナーとしては、人の作品をけなすのが一番つらい事なんですけど、新国立競技場に関しては怒っていますよ。競技場の全体的なスケッチがあったでしょ、素晴らしいけど、バカかと思いましたよ。だって、全部空から見た絵ばっかり。空から誰が見るの?
競技場は下から見上げるものですよ。凱旋門だってエッフェル塔だって、下から見上げるからきれいなんです。ダビデ象って頭が大きいの、ご存知でしょ? あれは下から見るとキレイに見えるように、バランスを考えて作っているんです。建物は下から見るものです。あまりにも知らなすぎますよ。
【稲川淳二】
1947年8月21日生まれ。東京都出身。桑沢デザイン研究所を経て、工業デザイナー、タレント、怪談家として活動。1996年、『車どめ』で通商産業省選定グッドデザイン賞を受賞。1993年からテレビ出演は夏だけとして、全国ツアーの怪談ライブを開催。夏の定番イベントとして定着している。12月にも開催予定。http://j-inagawa.com/
撮影■林紘輝