21世紀になっても古くからの信仰や風習が身の回りに残っていることがある。長野県の諏訪中央病院名誉院長・鎌田實医師が、講演で訪れた沖縄県で出会った「マブイグミ」という風習に出会ったときのことをつづる。
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9月、沖縄へ講演に行った。沖縄は、長野県が平均寿命日本一になる前、長らく長寿県を誇っていた。なぜ長寿だったのか、そして、なぜ長寿日本一から転落したのかを知ることはとても意味がある。
もともと沖縄は昆布を中心にしたダシ文化があり、豊富な魚、新鮮な野菜に恵まれた地域である。そこへ欧米の食文化やファストフードなどが一気に押し寄せ、肥満や生活習慣病を招く結果になった。
しかし、あきらめてはいけない。沖縄にはまだ健康にいい食文化が残っている。塩分の摂取量も低く、県民一人あたり平均10グラムを切っている。長寿日本一の座から転落した原因を改善し、いい面を伸ばしていけば、長寿王国に返り咲く可能性は高い。
「自分の健康や命を大切にすることは、平和につながる。沖縄でこそ健康、命、平和を模索し続けてもらいたい」講演ではそんな話をした。
その講演を無事に終え、那覇空港までの帰路、突然、車の中でこんなことを言われた。
「この後、マブイグミに行ってきます」
マブイグミ? 何のことだかわからない。初めて聞く言葉だった。
「マブイ」とは、沖縄の方言で生きている人の魂のことをいう。「グミ」は元に戻すとか、込める、組み込むという意味らしい。「魂込み」と書いてマブイグミと読むという。