1964年『ただいま11人』(TBS)と1966年『若者たち』(フジテレビ)、対極的な内容でもある二本の人気テレビドラマの出演により知名度を上げた。
「『ただいま11人』はホームドラマの典型です。とにかく日常をいかに再現するかという。それに反発するようにしてできたのが『若者たち』です。飯を食う場面は同じに出てくるのですが、こっちは全部ひっくり返して喧嘩になるという世界。『ただ和やかにご飯を食べるもんじゃない』というドラマを山内久さんが書かれていました。
ホームドラマの中に理屈が入ってくる。『本当に人間はこのままでいいのか』『貧しい人たちのことも考えろ』とね。今思うと、反体制というほどではないんですけど、そういうことをテレビドラマでやるのは珍しかったから圧倒的支持を得たんでしょう。
テレビドラマというのは、どちらかといえば丸っきり別の人間を演じるということはほぼありません。その人の資質というか、癖というか、体臭というか。そういうので演技が成り立っているんですよね。
それじゃあ、私が反体制的な人間なのかというと、実はあまりそうではないんです。でも、あの時にああいう役を演じたおかげで、今でも『政治的なにおいがする』と仲間内で言われることがあります。そういうイメージを続けて保てていることも、『若者たち』に出た大きな遺産といえるかもしれません」
■春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『あかんやつら~東映京都撮影所血風録』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
※週刊ポスト2015年12月11日号