飲み物を注ぐと、その色に染まった富士山が浮かび上がる「富士山グラス」(270ml・ 5400円)は、2015年2月の発売以来、入手困難な状態が続いているという。製造・販売を行っているのは1956年創業の「田島硝子」だ。
「職人がひとつひとつガラスを吹き上げて作っているので、どんなに頑張っても月に6000個が限界です」
そう話すのは、3代目社長の田嶌大輔さん。熱気あふれる工場の中央には、365日休まず稼働している大きなガラスの溶融炉があり、それを取り囲むように4~5人のグループが、5チーム編成で作業を行い、そのうち1チームがほぼ毎日「富士山グラス」を作っている。行程は以下の通り。
約1400℃の高温で溶かしたガラスを、ステンレス製の吹き竿に巻き取り、ガラス種を作る。次に、吹き竿から息を吹き入れて膨らませて形を作る。これは江戸時代から続く“型吹きガラス”の手法だが、「富士山グラス」は、さらに応用した技法で作られている。
「皆さんがイメージする吹きガラスは、息を吹き入れながら竿を回して形を作っていくものだと思います。しかし、非対称形である富士山の姿かたちを忠実に再現するには、軸を回転させて作るのは不可能です。
そのため、ガラスが熱いうちに富士山の型に入れ、竿とガラス種の底の部分を固定。側面の型のみを回転させ、息を吹き入れながら膨らませてグラスに成形していくのです」(田嶌さん)
それだけではない。富士山グラスは、底の厚い部分と側面の薄い部分で冷める時間に差が生じ、温度差で割れてしまわないよう注意して冷ますなど、かなりの労力を要して作られている。
凸凹した富士山の山肌は、飲み物を入れるとキラキラと反射し、美しい富士山が浮かび上がる。購入した人がSNSに写真をアップし、ついには中国版ツイッター“微博”で話題となったというのもうなずける。
※女性セブン2016年1月21日号