もっともグルテンフリーダイエットについては、懐疑的な見方も多い。もちろんグルテン過敏症やセリアック病といった疾患のある人にはグルテンフリー食品は必要だ。しかしグルテンフリーダイエットの根拠となっている説は、いずれも眉唾もの。
「血糖が急上昇する」という説は白米のほうが血糖値を上げやすいし、「グルテンに含まれる成分が食欲を促進させ、食べだすと止まらない」という話はグルテンに含まれる成分自体、脳に届くかどうかすら実証されていない(脳に届かなければ、当然食欲は促進されない)。
「鰯の頭も信心から」。熱に浮かされた”ブーム”は思考停止につながる。現在日本で人気の糖質制限食にしても、唯一絶対の食餌療法というわけではない。2013年に米国糖尿病学会が新たに「成人糖尿病患者の食事療法に関する声明」を出したが、そこには糖質制限食以外にも「ベジタリアン食、低脂質食、高血圧予防食、地中海食(※)」が含まれている。「患者ごとに多様な食事のパターン」があることが大前提なのだ。
【※地中海食――野菜・豆類・果物・シリアルを多く摂取し、オリーブオイルからn-3系不飽和脂肪酸を多く摂取。魚介類を多く、乳製品・獣肉や家禽類は少なめに、適量の赤ワインを摂取する食事】
現代の日本は、歴史上もっとも多くの情報を手に、多種多様な「食」を選ぶことができる。そんな恵まれた環境で、流行りのキャッチーな”食”ばかりに手を伸ばしてしまう。選べる環境を手にしながら選ばない。そこにある「もったいない」感は、食糧難だった戦後のそれに匹敵するほどのようにも思えてしまう。ああ、なんだかとてももったいない。