友達と酒を飲みに行ったら、タチの悪いおっさんが絡んできました。そのおっさん、あまりにもしつこかったのですが、友達も、怒り出したら収拾がつかなくなるような性質で、「おい、うるせえぞ」となったら、一触即発なところまで来てしまいました。
とにかく、この事態を回避するため、わたしは、よくわからない人間になってやろうと思い、おっさんに、いろいろと、変な質問をしまくりながら絡んでいきました。
「イージー・ライダーのバイク乗ってる二人、どっちが好きですか?」「あれ、さっき帽子かぶってませんでしたっけ? 中日ドラゴンズの」とか、「うわーこのカラシとても辛いですよ、食べてみませんか!」などなど、相手の話を聞かず喋り続けていたら、結局、おっさん、面倒臭くなったみたいで、黙りだしたのです。
ある人に、「あなたは、人を助けようとするとき、変な人になって、そこらの人々を攪乱させますよね」と言われたことがあります。
しかし、窮地において、この方法が、正しいのか、いまだによくわかりません。たぶん、正しくないと思います。
●いぬい・あきと/1971年東京都生まれ。作家。「鉄割アルバトロスケット」主宰。2008年小説家デビュー。『ひっ』『びんぞろ』『まずいスープ』『どろにやいと』が芥川賞候補に。『すっぽん心中』で川端賞受賞。著作『俳優・亀岡拓次』が映画化。散歩ばかりしている。
※週刊ポスト2016年3月11日号