台湾の李登輝・元総統は近著『余生:我が人生の旅と台湾民主の道』の中で、蒋介石総統の息子で、総統も務めた蒋経国氏について言及。同氏が日本の武士道精神の影響を強く受けており、「ことを成すに私心なく、常に人々のためを考えてことを成す」との考え方に深く感動していたことを明らかにした。
また、沖縄県尖閣諸島問題で、「尖閣諸島を台湾のものだと主張する政治家は無知だ」と主張しているが、これについては台湾内部で反発が広がっている。
ネット上では、「日本びいきも良いが、そんなに日本が好きならば、日本に帰ればよい」との李氏を批判する書き込みもみられている。
李登輝氏は副総統時代、総統だった蒋経国氏に仕え、深く蒋氏を尊敬していたとされる。
また、蒋氏は李氏が台湾生まれの「本省人」で、台湾の日本統治時代の影響を強く受けていることを承知のうえで副総統に抜擢し、李氏の能力を高く評価していたという。このため、蒋氏は李氏の前で武士道の精神を称賛し、「仕事に対する責任感や真剣さ、完璧さ」などについて、中国は及ばない点もあるなどと語っていたという。
中国大陸で日本軍と戦った蒋介石総統を父にもつ蒋経国氏が日本の武士道精神や日本人の特質を称賛していたとのエピソードが明かされるのは初めて。
一方、同書では尖閣諸島について、日本領との立場を取っている。たとえば、現職の呉敦義・副総統が李氏の意見に反発していることについて、「『釣魚島(尖閣諸島の中国語名)は台湾の領土だ』と言う人物は、みんな無知で常識のない政治屋だ」と批判。そのうえで、尖閣諸島が台湾領土であると最初に主張したのは、現総統の馬英九氏であり、それは1972年のことだったと指摘。
「馬氏の当時の発言は、国連が海洋法条約を公布する準備をしていたことに加え、尖閣諸島付近の海底に石油が埋まっていることが分かったからだ」と指摘している。
さらに、「(日本と台湾は)運命共同体であり、日本以外の国にはアジアの指導者になる資格はない」とも強調している。
このような李氏の主張について、台湾総統府は「主権を失わせ国を辱める言動」と強く反発している。
李氏の総統時代にブレーンとして活躍した蔡英文・次期総統も、「民進党の立場は一貫している。釣魚島は台湾のものだ」との台湾当局の公式見解を繰り返している。蔡氏としては、李氏の発言の意図は理解できるものの、台湾の次期最高指導者としては、台湾の国民感情もあり「領土問題では譲歩できない」といったこところ。一方、日本との関係改善を望む蔡氏としては、総統就任後は尖閣諸島問題などの敏感な問題については、極力触れないとの立場をとるとみられる。