店頭に「分煙ステッカー」掲げる新橋お多幸社長の柿野幹成氏
いまや少数派になった「愛煙家」にとって、外出先で喫煙場所を探すのは容易ではない。
屋外は罰則付きの路上喫煙禁止エリアが凄まじい勢いで広がっているうえ、灰皿のある指定の喫煙場所を探そうにも、土地勘のない所では見当もつかない。さらに、駅周辺や公共スペース、コンビニ前、商業施設の専用スペースなど、これまで喫煙可だった場所からも灰皿が次々と撤去されている。
“喫煙難民”の唯一のオアシスともいえるのは、自由にたばこが吸える喫茶店や分煙スペースのある飲食店だ。近年は受動喫煙対策から「全席禁煙」を掲げる店も増えたが、基本的には施設管理者の判断に委ねられている。
大手飲食チェーンが多数加盟する一般社団法人日本フードサービス協会も、
〈たばこを吸う方も吸わない方も、飲食業界にとっては大事なお客様。禁煙・分煙・喫煙など多様な飲食空間から、お客様に自由に選んでいただくことが望ましい〉
との方針を崩していない。受動喫煙問題については、時間帯を区切った禁煙・分煙や、空調と間仕切りを工夫した分煙席の配置変更など、店側の自主的な取り組みを尊重する。
その一方で、政府は2020年の東京五輪までに、飲食店の「分煙義務化」を盛り込んだ新法を制定したい考えで、禁煙推進派からは〈完全分煙が守れない店は罰則を設けるべき〉〈五輪を機に飲食店を含めて屋内を完全禁煙にすべき〉との声も挙がる。
だが、こんな強制的な規制の動きに飲食業界は戸惑い、反発している。東京都飲食業生活衛生同業組合の事務局担当者は、こう訴える。
「われわれの組合員の多くは、店舗面積50平方メートル以下の小さな店ばかりです。完全分煙が義務化されても狭い店内を喫煙席と禁煙席に仕切るのは物理的に無理があります。
分煙ができない店は完全禁煙にしてしまえばいいというのも行き過ぎた議論です。ただでさえ、分煙環境の整った大手チェーンにお客さんを奪われている中、禁煙にしたらますますお客さんは流れてしまいますし、売り上げが激減して店の死活問題に発展します」
同組合では、飲食店舗の入口に「喫煙ルール」を示すオリジナルステッカーの貼付を広めることで、禁煙者も喫煙者も気持ちよく過ごせる店を選ぶことができ、受動喫煙防止にも寄与すると考えている。そのため、2011年より〈喫煙スペースあります〉〈禁煙席と喫煙席があります〉など8種類のステッカー配布を進めている。
また、東京都も五輪を見据えて訪日外国人にも店の喫煙に関するスタンスが分かりやすいようにと、4種類のステッカーを3万枚製作。都内店舗への配布を始めた。