昭和7年創業の老舗おでん屋『新橋お多幸』(東京・港区)では、5年前より座敷の個室を禁煙にし、3年前からカウンター席も禁煙にした。たばこが吸えるのはテーブル席だけだが、店の外にも灰皿を設置するなど喫煙者に配慮した分煙空間をつくっている。
「新橋はサラリーマンの街でたばこを吸うお客さんも多いのですが、隣の席から流れてくる煙がイヤだとおっしゃる人も増えたので、分煙にすることを決めました。特にカウンター席は隣の人との距離だけでなく、おでん種が入った鍋も近いため、衛生上も禁煙にしたほうがいいだろうとの判断です」(新橋お多幸社長の柿野幹成氏)
店先の柱には、前出の東京都飲食業生活衛生同業組合のステッカーに加え、東京都のステッカーも貼り、はっきりと分煙実施の意思表示をしている。
同店を訪れた50代の男性会社員は、「店に入る前に表示は見ました。もし、たばこが完全に吸えないお店だったら、おでんは諦めて違う店に変更していたと思います」と話す。
こうした店側の自主的な分煙対策は、少しずつではあるが着実に浸透してきている。柿野氏は「店のルールを周知させるまでもなく、喫煙者のマナーはきちんとしているから問題ない」という。
「昔はたばこに火をつけたまま吸わずにずっと持っているだけの人もいましたが、いまは喫煙席に座っても隣のお客さんが吸わなかったから、我慢してわざわざ外に吸いに行く喫煙者も多い。
こうしたマナーが自ずと定着していけば、強制的に完全禁煙にしなくても喫煙者・非喫煙者がトラブルになることもありませんし、客数や売り上げを極端に落とす心配もありません」(柿野氏)
ステッカーの普及促進は東京に限らず、全国の自治体でも広がりつつある。
外国人観光客も多い京都市が、官民一体となり市内4000店以上の飲食店にステッカーの貼付や店頭表示を呼び掛けるマナー啓発運動を起こしていることは当サイトでも紹介したが、その他、栃木・高知・岐阜などでも各飲食組合が「受動喫煙対策はできることから」と、ステッカーによる店頭表示を呼び掛けている。
東京都が2013年度に行った「飲食店における受動喫煙防止に向けた取組状況調査」によれば、〈禁煙〉および〈分煙〉対策を取っている店は全体の42.2%あり、そのうちステッカーをはじめとする表示をしている店は51.3%あった。
多様性を認め合う東京の「喫煙ルール」と「分煙マナー」。そのうねりがさらに高まれば、全国への波及効果は絶大だろう。なによりも、自発的な分煙社会の醸成は、他人を気遣うという意味において、様々な国や文化で育った人々をもてなすオリンピックでも活かされるはずだ。