『おそ松くん』といえば、『週刊少年サンデー』で連載された名作ギャグ漫画。年配の読者にとっては少年時代の懐かしい思い出だろう。主人公の六つ子(松野兄弟)と、主役よりも個性的な「イヤミ」「チビ太」「デカパン」といった“脇役”が織りなすドタバタ劇に、腹を抱えて笑ったものだ。
その「往年の名作」が、なぜか今の世で若者たちにウケているというから不思議なものだ。赤塚不二夫生誕80周年記念のテレビアニメ『おそ松さん』(テレビ東京系)が大ブームなのである。
3月28日放送の最終回は、視聴率1%取れれば大ヒットといわれる深夜1時台で3%を記録。『おそ松さん』を表紙にした雑誌は軒並み完売となっているという。一体なぜそれほど人気になったのか? 第1の理由は「赤塚原作を凌ぐハチャメチャ展開」だ。
「大人、しかもニートになった松野兄弟が主人公」という設定なのだが、原作を脱線しまくり。その内容は第1回放送からぶっ飛んでいた。
『進撃の巨人』など人気アニメのパロディを延々繰り広げた後で、六つ子のひとりが「赤塚先生怒ってないかな?」とポツリ。すると別のひとりが「平気だよ、だいぶ前に死んじゃったから」と言い放ったのだ。
ある回は「ブラック企業でアルバイトをする話」だったり、危ないネタが満載だ。最終回では、いきなり宇宙人との野球対決が始まり視聴者の度肝を抜いた。
さらに「六つ子のキャラが個性的に描かれている」ことも大きな違い。たとえば長男・おそ松はおおざっぱなギャンブル狂、次男・カラ松はナルシスト、五男・十四松は何をしでかすか分からない問題児だ。性格の異なる兄弟間の掛け合いがなんとも魅力的なのだ。
「赤塚原作とはまったくの別物でありながら、既存のアニメの枠組を無視した爆発的ギャグは、赤塚イズムと通底している。そのアナーキーさが今の若者たちに受け入れられているのではないか」(アニメ雑誌編集者)
あまりの人気ぶりに、第2クールの終了直後から早くも続編の噂が絶えない。名作は時代を超えて生き続ける。
※週刊ポスト2016年4月15日号