コラム

サウジとイランの戦争勃発なら日本経済はどうなるか?

原油価格下落の背景にあるものは何か?

 原油価格の急落に伴い世界経済に大きな影響が出ている中、経済アナリスト・森永卓郎氏は「最悪のシナリオも想定しておくべきだ」という。それは、サウジアラビアとイランの間で戦争が勃発する可能性だ。昨今の原油安の背景について、森永氏が解説する。

 * * *
 年初からの世界同時株安は、中国経済失速と原油価格急落が要因だと、メディアは報じています。たとえば、中国の昨年度の貿易収支を見ると、輸入だけでなく輸出までが前年度比でマイナスに転落し、経済の失速が深刻な状況であるのは間違いありません。

 ただ、中国の労働者の賃金はこの10年間でほぼ4倍に高騰しています。賃金水準がここまで高くなっているわけですから、低人件費を武器に安い消費財を大量生産し、世界の工場と化すことで成長を続けてきた中国経済が減速していくことは予見されていました。そのため、市場では織り込み済みの面もあり、今回の世界同時株安の要因としては大きくない。やはり、最大の要因は原油安なのです。

 2年半ほど前には、原油価格は1バレル=100ドルを超えていました。それが、その4分の1程度の水準まで下落しました。これほどの原油安となった要因は、OPEC(石油輸出国機構)の中で減産の合意ができないからです。その理由については諸説ありますが、サウジアラビアとイランが国交断絶に至るほど激しく対立していて、減産の話し合いができないということが大きいでしょう。

 そこに加えて、もう一段の深読みができます。サウジの背後には米国が、イランの背後にはロシアがいて、サウジとイランの対立は実は米露の代理戦争だという考え方です。産油国のロシアの経済に打撃を与える目的で、米国が裏でサウジに減産しないよう働きかけているという見方です。

 実際に米国は、自国のシェールオイルがコスト割れの価格でも、採算度外視で輸出を継続しています。このことからも、ロシアを封じ込めようとする意図は明らかだと思われます。そうなると対立は根深く、簡単には解決しません。市場がそう見ているからこそ、原油価格は下がり続けており、この傾向はまだ2~3年続く可能性も考えられます。

 さらに、最悪のシナリオも考えておく必要があります。米露の代理戦争であるサウジとイランの対立は、一歩間違えば本当の戦争につながりかねません。万が一そうなれば、日本経済が深刻なダメージを負うのは避けられません。

 サウジは日本の最大の原油輸入先で、イランは第6位の輸入先です。しかも、サウジとイランの間にはペルシャ湾があり、その出口にはホルムズ海峡がある。ここを通って輸入先第2位のUAE、第3位のカタール、第5位のクウェートの原油が日本に運ばれてくる。ホルムズ海峡が封鎖されるような事態となれば、日本の石油の約8割が調達できなくなってしまうのです。

 それは、石油価格がいきなり数倍に暴騰するという種類のショックだけではなく、そもそも物理的に石油が手に入らなくなるというショックを意味するのです。そうなればもちろん、日本株の暴落も避けられないでしょう。

※マネーポスト2016年春号

関連キーワード

関連記事

トピックス

西城秀樹さんの長男・木本慎之介がデビュー
《西城秀樹さん七回忌》長男・木本慎之介が歌手デビューに向けて本格始動 朝倉未来の芸能事務所に所属、公式YouTubeもスタート
女性セブン
兵役のため活動休止中のBTS。メンバー全員が除隊となる2025年にグループ活動再開を目指している(写真/アフロ)
【韓国大手事務所HYBEの内紛】「BTSの父」と「NewJeansの母」が対立 ARMY激怒で騒動は泥沼に、両グループの活動に影響も
女性セブン
有村架純と川口春奈
有村架純、目黒蓮主演の次期月9のヒロインに内定 『silent』で目黒の恋人役を好演した川口春奈と「同世代のライバル」対決か
女性セブン
林田理沙アナ。離婚していたことがわかった(NHK公式HPより)
離婚のNHK林田理沙アナ(34) バッサリショートの“断髪”で見せた「再出発」への決意
NEWSポストセブン
フジ生田竜聖アナ(HPより)、元妻・秋元優里元アナ
《再婚のフジ生田竜聖アナ》前妻・秋元優里元アナとの「現在の関係」 竹林報道の同局社員とニアミスの緊迫
NEWSポストセブン
小泉氏は石破氏に決起を促した
《恐れられる“純ちゃん”の政局勘》小泉純一郎氏、山崎拓氏ら自民重鎮OBの会合に石破茂氏が呼ばれた本当の理由
週刊ポスト
大谷翔平(左/時事通信フォト)が伊藤園の「お〜いお茶」とグローバル契約を締結したと発表(右/伊藤園の公式サイトより)
《大谷翔平がスポンサー契約》「お〜いお茶」の段ボールが水原一平容疑者の自宅前にあった理由「水原は“大谷ブランド”を日常的に利用していた」
NEWSポストセブン
撮影現場で木村拓哉が声を上げた
木村拓哉、ドラマ撮影現場での緊迫事態 行ったり来たりしてスマホで撮影する若者集団に「どうかやめてほしい」と厳しく注意
女性セブン
5月場所
波乱の5月場所初日、向正面に「溜席の着物美人」の姿が! 本人が語った溜席の観戦マナー「正座で背筋を伸ばして見てもらいたい」
NEWSポストセブン
氷川きよしの白系私服姿
【全文公開】氷川きよし、“独立金3億円”の再出発「60才になってズンドコは歌いたくない」事務所と考え方にズレ 直撃には「話さないように言われてるの」
女性セブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン