ライフ

【書評】「学校は悪」という空気がもたらした悲劇

【書評】『モンスターマザー 長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い』/福田ますみ著 新潮社/本体1400円+税

福田ますみ(ふくだ・ますみ):1956年神奈川県生まれ。立教大学社会学部卒業。専門誌、編集プロダクション勤務などを経てフリーに。著書に『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫。新潮ドキュメント賞)など。

【評者】評者/鈴木洋史(ノンフィクションライター)

 いろいろな意味で、読んで背中に寒気を感じる話である。

 2005年12月、丸子実業高校(現丸子修学館高校。長野県)1年生の男子生徒が自宅で首吊り自殺した。母親は当初、所属していたバレーボール部内での先輩によるいじめが原因だとマスコミに言い立て、後にはなんと校長を殺人罪で刑事告訴した。

 生徒はうつ病の診断書を3回も学校に提出していたのに、校長が「欠席が続くと進級が難しくなる」という内容の文書を送った結果、生徒は不安と絶望を駆り立てられ、自殺に追い込まれたという主張である。

 母親はさらに、損害賠償を求めて校長、いじめを行ったとされる先輩とその親、県を民事で提訴。それに対して、校長らは母親と徹底的に争い、バレー部の関係者らは母親の言動によって精神的苦痛を被ったとして損害賠償を求め、校長は母親と弁護士を名誉毀損で提訴した。バレー部の関係者らによる提訴に対しては母親が反訴している。こうして前代未聞の告訴合戦が展開された。

 本書はその顛末を詳細に取材したルポルタージュである。

 当初、事件を報じた新聞は母親の主張に重きを置いた報道を行い、テレビは記者会見で校長の表情がふと緩み、ニヤついたようにも見えた瞬間の映像を印象的に使うなど〈あらかじめ、学校批判の筋書きを作っていた〉とも思える見せ方をした。そのため、学校はさまざまな嫌がらせを受けた。抗議電話が殺到し、校長宛てに注文していない品物が送りつけられて代金を請求され、校内で不審火が起き、体育館に「バレー部は人殺し」と落書きされた。

 母親の弁護人を買って出たのは、2004年の「イラク日本人人質事件」のとき3人の日本人を迎えに行った著名な人権派弁護士だった。また、どの報道機関も一応は校長らの主張も併記し、断定だけは避けて報道していたのに、「反権力」を売り物にする著名なルポライターと雑誌は、母親と弁護人だけの言い分をもとにしたルポ風の記事を執筆し、掲載した。

関連記事

トピックス

東川千愛礼(ちあら・19)さんの知人らからあがる悲しみの声。安藤陸人容疑者(20)の動機はまだわからないままだ
「『20歳になったらまた会おうね』って約束したのに…」“活発で愛される女性”だった東川千愛礼さんの“変わらぬ人物像”と安藤陸人容疑者の「異変」《豊田市19歳女性殺害》
NEWSポストセブン
児童盗撮で逮捕された森山勇二容疑者(左)と小瀬村史也容疑者(右)
《児童盗撮で逮捕された教師グループ》虚飾の仮面に隠された素顔「両親は教師の真面目な一家」「主犯格は大地主の名家に婿養子」
女性セブン
組織が割れかねない“内紛”の火種(八角理事長)
《白鵬が去って「一強体制」と思いきや…》八角理事長にまさかの落選危機 定年延長案に相撲協会内で反発広がり、理事長選で“クーデター”も
週刊ポスト
ディップがプロバスケットボールチーム・さいたまブロンコスのオーナーに就任
気鋭の企業がプロスポーツ「下部」リーグに続々参入のワケ ディップがB3さいたまブロンコスの新オーナーなった理由を冨田英揮社長は「このチームを育てていきたい」と語る
NEWSポストセブン
たつき諒著『私が見た未来 完全版』と角氏
《7月5日大災害説に気象庁もデマ認定》太陽フレア最大化、ポピ族の隕石予言まで…オカルト研究家が強調する“その日”の冷静な過ごし方「ぜひ、予言が外れる選択肢を残してほしい」
NEWSポストセブン
佐々木希と渡部建
《渡部建の多目的トイレ不倫から5年》佐々木希が乗り越えた“サレ妻と不倫夫の夫婦ゲンカ”、第2子出産を迎えた「妻としての覚悟」
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で、あられもない姿をする女性インフルエンサーが現れた(Xより)
《万博会場で赤い下着で迷惑行為か》「セクシーポーズのカンガルー、発見っ」女性インフルエンサーの行為が世界中に発信 協会は「投稿を認識していない」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
《東洋大学に“そんなことある?”を問い合わせた結果》学歴詐称疑惑の田久保眞紀・伊東市長「除籍であることが判明」会見にツッコミ続出〈除籍されたのかわからないの?〉
NEWSポストセブン
愛知県豊田市の19歳女性を殺害したとして逮捕された安藤陸人容疑者(20)
事件の“断末魔”、殴打された痕跡、部屋中に血痕…“自慢の恋人”東川千愛礼さん(19)を襲った安藤陸人容疑者の「強烈な殺意」【豊田市19歳刺殺事件】
NEWSポストセブン
都内の日本料理店から出てきた2人
《交際6年で初2ショット》サッカー日本代表・南野拓実、柳ゆり菜と“もはや夫婦”なカップルコーデ「結婚ブーム」で機運高まる
NEWSポストセブン
無期限の活動休止を発表した国分太一
「こんなロケ弁なんて食べられない」『男子ごはん』出演の国分太一、現場スタッフに伝えた“プロ意識”…若手はヒソヒソ声で「今日の太一さんの機嫌はどう?」
NEWSポストセブン
1993年、第19代クラリオンガールを務めた立河宜子さん
《芸能界を離れて24年ぶりのインタビュー》人気番組『ワンダフル』MCの元タレント立河宜子が明かした現在の仕事、離婚を経て「1日を楽しんで生きていこう」4度の手術を乗り越えた“人生の分岐点”
NEWSポストセブン