ビジネス

年金運用で5兆円消失 大損隠しは典型的ヘボギャンブラー

年金運用で5兆円消失。アベノミクス苦境に

 安倍晋三首相は「消えた年金」問題で1度政権を失った。そして今、また年金問題に直面している。厚労省の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用に失敗、損失額は5兆円にのぼると見積もられている。ところが、年金積立金の運用実績の公表を参院選後の「7月29日」に延期する方針を決定した。露骨な選挙対策だ。

 年金損失の公表を遅らせようとするのは、5兆円という“消えた年金積立金”の金額の衝撃だけではなく、年金のハイリスク運用という政策判断そのものの失敗が明らかになることを恐れるからだ。

 参院選前に年金が争点化するのは安倍首相にとって悪夢の再来となりかねない。

 かつての「消えた年金」の主犯である厚労省役人たちもなりふり構わぬ隠蔽工作を展開した。先に触れた民進党の年金運用問題の勉強会では厚労省が厳しい追及を受けた。

 厚労省とGPIFは当初、公表延期の理由について、「保有する2000以上の株式の個別銘柄の開示を検討している」「今年はGPIF設立10周年で、10年間の事業概況の総括を盛り込むから分析に時間がかかる」──などと苦しい言い訳を続けた。いずれも損失額の集計とは関係がない。

 個別銘柄は年金運用を委託されている信託銀行ならパソコンのボタンの一つでわかるはずだ。業務の概要分析に4か月もかかるという言い訳は役人のサボタージュ以外の何物でもない。

 民進党議員たちが「損失額の集計だけなら5月下旬か6月までにできる。参院選前に出せ」と迫ると、GPIFの担当者はこう開き直った。

「国民の審判を受ける日かどうかを考慮して作業はしていない」

 厚労省には前回2014年の総選挙前にも情報隠蔽の“前科”がある。予定していた医療介護改革推進本部の開催を急遽中止し、厚労省私案の公表を選挙後に先送りしたのだ。私案には後期高齢者の医療費窓口負担引き上げなどが盛り込まれていたことから、「選挙前に国民に知らせるのはマズイ」という政治判断だった。

 都合が悪い情報やデータを隠すのは権力者の常套手段だ。選挙が終わってから情報を出せば有権者は「一票の行使」につなげることができない。

「株価連動内閣」と呼ばれた安倍政権の株価吊り上げのために5兆円もの年金のカネが消え、それによって安倍首相は政権の安定を得たが、国民は「老後の安定」を失った。

 株価は上下するものであり、政策には時として過ちもある。だが、大儲けした時だけ自慢して、大損した時には隠そうとするのは典型的な“ヘボギャンブラー”の特徴だ。責任者たちは潔く説明したうえで、「国民の審判」を仰ぐべきだ。それさえできない者に年金を預かる資格はない。

※週刊ポスト2016年4月22日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

「夢みる光源氏」展を鑑賞される愛子さま
【9割賛成の調査結果も】女性天皇についての議論は膠着状態 結婚に関して身動きが取れない愛子さまが卒論に選んだ「生涯未婚の内親王」
女性セブン
勝負強さは健在のDeNA筒香嘉智(時事通信フォト)
DeNA筒香嘉智、日本復帰で即大活躍のウラにチームメイトの“粋な計らい” 主砲・牧秀悟が音頭を取った「チャラい歓迎」
週刊ポスト
『虎に翼』の公式Xより
ドラマ通が選ぶ「最高の弁護士ドラマ」ランキング 圧倒的1位は『リーガル・ハイ』、キャラクターの濃さも話の密度も圧倒的
女性セブン
羽生結弦のライバルであるチェンが衝撃論文
《羽生結弦の永遠のライバル》ネイサン・チェンが衝撃の卒業論文 題材は羽生と同じくフィギュアスケートでも視点は正反対
女性セブン
“くわまん”こと桑野信義さん
《大腸がん闘病の桑野信義》「なんでケツの穴を他人に診せなきゃいけないんだ!」戻れぬ3年前の後悔「もっと生きたい」
NEWSポストセブン
中村佳敬容疑者が寵愛していた元社員の秋元宙美(左)、佐武敬子(中央)。同じく社員の鍵井チエ(右)
100億円集金の裏で超エリート保険マンを「神」と崇めた女性幹部2人は「タワマンあてがわれた愛人」警視庁が無登録営業で逮捕 有名企業会長も落ちた「胸を露出し体をすり寄せ……」“夜の営業”手法
NEWSポストセブン
中森明菜
中森明菜、6年半の沈黙を破るファンイベントは「1公演7万8430円」 会場として有力視されるジャズクラブは近藤真彦と因縁
女性セブン
食品偽装が告発された周富輝氏
『料理の鉄人』で名を馳せた中華料理店で10年以上にわたる食品偽装が発覚「蟹の玉子」には鶏卵を使い「うづらの挽肉」は豚肉を代用……元従業員が告発した調理場の実態
NEWSポストセブン
撮影前には清掃員に“弟子入り”。終了後には太鼓判を押されたという(時事通信フォト)
《役所広司主演『PERFECT DAYS』でも注目》渋谷区が開催する「公衆トイレツアー」が人気、“おもてなし文化の象徴”と見立て企画が始まる
女性セブン
17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン
昨年9月にはマスクを外した素顔を公開
【恩讐を越えて…】KEIKO、裏切りを重ねた元夫・小室哲哉にラジオで突然の“ラブコール” globe再始動に膨らむ期待
女性セブン