JR東日本は駅ナカや駅前に大型商業施設やホテルなどを建設している。近年、駅ナカは、その立地性から多くの利用者を集め、衰退する百貨店業界の中でも唯一の勝ち組とも言われる。それら駅ナカの商業施設に比べると、保育所は明らかに”金を稼ぐ”ことができない施設だといえる。一等地ともいえる駅前や駅近に、わざわざ”金を生まない”保育所をつくる理由はどこにあるのだろうか?
「短期的な視点で見れば、保育所は儲けることができない施設です。しかし、沿線に保育所を充実させることで、現役世代がJR沿線に移り住むようになります。現役世代の人口が増えれば地域は活性化し、沿線も活性化します。地域の方々に親しまれる沿線づくりは、中長期的な視点に立てばJR東日本にとってもプラスになると考えています」(同)
JR東日本は保育所のみならず、2010(平成22)年には駅前学童施設も開設。その後も子育て支援施設の建設を進め、いまや仙台エリアや盛岡エリアにも駅型保育所を開設。2016(平成28)年4月現在、その数は93を数える。JR東日本は、これらを100にまで増やすことを目指している。ただし、JR東日本は、あくまで保育所のスペースを提供する企業に過ぎず、運営事業者は自治体との協議で決められている。
都心部では数分おきに電車が運行されている。高架下につくられた保育所は鉄道の走行による騒音や振動が激しく、保育所には適していないとの指摘もある。JR東日本は「騒音や振動対策として、二重窓を採用したり、建物の柱を離した構造にすることで振動が伝わらないような工夫をしている」と言う。
また、高架下につくられる保育所は日陰になりがちで、小さな園庭しか物理的に確保することができないケースもある。その場合は近所の公園なども活用しているようだ。もちろん、そうした部分を気にして、普通の保育所に預けたいと考える保護者もいるだろう。
一方、鉄道の高架下という立地のおかげで「子供たちが遊んでいても、近隣住民から『子供の声がうるさい』といった苦情はありません」(同)といったメリットもある。
保育所をつくること自体が難しくなっている中、埼玉県さいたま市などからJR東日本に対して「もっと保育所をつくれないか?」といった打診まできているという。
JR東日本が先鞭をつけた”金を生まない保育所の整備”によって、沿線の待機児童問題緩和に役立っている。また、東急や小田急、西武などほかの鉄道事業者も参入するようになった。
世の中の流れに逆らっているようにみえたJR東日本の保育所をつくるという逆張り戦略は、確実に実を結びつつある。