全身麻酔の患者に胃カメラを挿入すると食道の内側が粘膜で覆われ、筋肉が見えない。そのためPOEMでは、食道粘膜を切除し、カメラを粘膜と筋肉の間(粘膜下層)に入れる。その後、胃の手前までトンネルを掘るように進む。胃の接合部付近の輪のようになっている筋肉(内輪筋、ないりんきん)がゴムバンドのようにきつく食道を締め付けているので、そこを1か所ずつ切っていく。
「内輪筋を電気メスで切ると食道と胃のつなぎ目が徐々に3~4センチ広がります。その後、カメラが入ってきた粘膜を医療用クリップで閉じ、手術は1時間ほどで終了します」(井上教授)
翌日粘膜の状態をX線で確認し、問題がなければ水を飲むことができる。術後2日目には食事も可能で、4日程度で退院できる。クリップは3か月程度で自然に落ちるので、回収の必要はない。
POEMは2008年から始まり、昭和大学で1000例(臨床研究)、国内では1400例、海外を合わせると4000例を超える症例に実施されている。今年保険承認され、今後は食道アカラシアの標準治療になるものと期待されている。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2016年6月17日号